3次救急の受け入れ不能なくしたい-都内3救急病院、41慢性期病院が連携へ
「病院見学の時間をなくすことで、3次救急のベッドを埋めている患者を速やかに慢性期病院に移し、本来の救急病院の機能を取り戻せれば」―。東京都内で5月20日、急性期病院と慢性期病院の連携によって患者の速やかな転院を促そうとする「東京都療養型病院研究会連携プロジェクト」の初会合が開かれ、参加する病院の職員ら約70人が初の顔合わせを行った。(熊田梨恵)
■救急と慢性期、ニーズにミスマッチ
今の救急医療現場は、高齢化などに伴い年々増える救急搬送や、急性期の状態を脱した後の患者の受け入れ先が見つかりにくいことなどから、最も高度な救命処置を行う3次救急病院に慢性期の患者が入院し、新しい患者を受け入れられない「受け入れ不能」状態を引き起こしている。昭和大学病院の有賀徹救命救急センター長が「3次救急が吹きだまりになっている」と指摘するように、野宿者や独居の高齢者などが搬送された場合、身元がはっきりしないために長期入院や未収金につながりやすく、同じ理由から転院先も見つかりにくい。特に、国が進める療養病床の削減政策によって慢性期患者の受け入れ先が地域から減りつつあり、救急病院の中が入院患者でパンクしている状態がある。
一方の慢性期病院側も生き残りをかけてしのぎを削っている。国は医療費の適正化を目的に、療養型に入院する医療依存度の低い患者を介護施設に移していく方針だ。このため、06 年度の診療報酬改定で、医療依存度や身体機能(ADL)で入院基本料に差をつける療養病棟入院基本料を創設。中心静脈栄養(IVH)など最も重度の患者と軽度の患者とで、診療報酬に約1000点の差をつけた。さらに、同年7月には「医療区分」を導入し、患者を医療の内容やADLで区別し、診療報酬に差をつけるようにした。このため、経営が悪化して病床の転換や閉鎖を迫られる施設が相次ぎ、残る慢性期病院も医療区分の低い患者では受け入れない施設が増えている。医療区分1など診療報酬が低くなる軽度の患者では受け入れ先がほとんどないのが実情だが、急性期病院からの紹介は状態が安定した患者が多いという相容れない状況が起こっている。
■ミスマッチ解消し、"win-win"の連携システムを
この状況を改善するために、急性期と慢性期の病院間での速やかな転院連携を進めているのが、この「東京都療養型病院研究会連携プロジェクト」だ。目的は、3次救急側が本来の機能を取り戻し、慢性期病院側も自施設に合った患者をスムーズに受け入れられるようにすること。都立府中病院、杏林大学付属病院、武蔵野赤十字病院の3つの3次救急病院と、都内41の慢性期病院が連携し、この5月から始まった。
連携システムに参加する永生病院の飯田達能院長は、急性期から転院する前に家族が転院先の慢性期病院の様子を見たり、費用を調べたりする"病院見学"に、2週間から1か月かかっており、円滑な転院の障害になっていると指摘する。「連携システムではこの期間を省いて救急病院の流れを円滑にし、都民の役に立てたい。ただ、ご家族が費用や転院先の様子などをちゃんとを知っておかないとトラブルにつながりかねないところが課題」と話す。
昨年12月から今年4月まで、都立府中病院と都内8つの慢性期病院でこの連携プロジェクトを試行した。府中病院の医療ソーシャルワーカーが連携の窓口となり、病院見学を省く形で慢性期病院に患者を紹介。ワーカーが患者や家族と面談し、受け入れに適当な慢性期病院を選び、患者の詳細な情報を慢性期病院側に提供しながら進めた。府中病院からの患者紹介件数は、昨年12月は9件で、救命センターから直接転院できたのはこのうち3件、残りの6件はセンターから一般病床に移った患者が転院した。一方、府中病院の3次救急対応患者件数は171件で、前年の144件から20%近く増加した。飯田院長は「これがすべて連携システムの効果だとは言えないが、3次救急の病床の回転が早くなったことが伺える」と話す。この転院による患者・家族とのトラブルはなかったという。