「医療崩壊が表れた」―都の脳卒中連携搬送協議会
「患者が一つの病院に集中して、脳外科診療を続けられなくなった。医療崩壊が表れた」―。国が示す脳卒中医療の体制を構築するため、東京都が3月に開始した脳卒中患者の搬送連携システム。制度設計を考えてきた協議会の委員や事務局は「走りながら考えるしかない」としながらも、現状の医療提供体制に悪影響を及ぼさないよう地道に議論を続けてきた。しかし、実際に搬送システムが稼働した後、地域医療に問題が発生しているとの報告が上がってきた。(熊田梨恵)
東京都は5月13日、脳卒中医療連携協議会(会長=有賀徹・昭和大病院副院長)の今年度の初会合を開催し、都が3月9日から開始している、急性期の脳卒中医療が必要な患者の救急搬送体制の検証に乗り出した。
■新しい脳卒中患者の搬送システム
この搬送システムは、脳卒中の疑いがある患者の搬送依頼があった際、救急隊が「顔が左右対称に動かない」「言語が不明瞭」など、「シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS:TheCincinnatiPrehospitalStroke. Scale)」に基づいて、脳卒中の疑いがあると判断した場合に、都が認定した「脳卒中急性期医療機関」に搬送するシステムだ。
この認定医療機関は、脳卒中の急性期治療が可能な医師や看護師などスタッフの配置や、医療機器設備、リハビリスタッフの配置などについて一定の基準をクリアした病院だ。特に、t-PA(血栓溶解薬)による治療を行う医療機関の場合は、来院から1時間以内に治療を実施できるようにしていることや、最短でも治療後36時間までは、副作用の発現に速やかに対応できるようにしておくことなどが要件になっている。
これらの病院が患者の受け入れ可能な時間帯を、日勤帯と夜勤帯で分けてカレンダー形式で示し、救急隊はそれを参考に搬送先を決める。
協議会が昨年度の会合中に取り決めた脳卒中医療機関の取り組み指針、「東京都脳卒中救急搬送体制スタートに向けて~各脳卒中急性期医療機関の取組」は、次の内容。
(1) 救急隊が「脳卒中疑い患者」の受入要否照会の電話を入れた際に、受入可否の判断をする権限のある人を常時明確にし、速やかに回答できる院内体制を整備しておく。
(2) 「脳卒中」疑い患者が救急搬送されてきた場合の対応手順(院内の連絡、検査等の手順、家族等への説明など)を、院内の関係診療科、検査部門、事務部門、等々関係各部門、各職種すべてで徹底しておく。
(3) 「脳卒中」患者の記録の把握が関係診療科を越えて院内全体で円滑に行える仕組みを作る(実績の評価・検証・分析を漏れなくバラツキなく円滑に行うため)。
都内には12の医療圏があり、人口は1279万4583人(5月13日時点)。2006年に脳卒中で死亡した都民は約1万1000人で、死亡数全体の11.5%を占めていた。2005年の「脳血管疾患」患者は約10万8000人。現在は158の医療機関が脳卒中急性期医療機関に認定されている。