これ以上 千葉を崩壊させない
――何が根っこの問題ですか。
医療の現実について、国民に正しく情報が伝わっていないと感じています。現場を知らない厚生労働省の医系技官が、無責任に適当な通知を出して現場を引っかき回し、その結果として医療が崩壊への道をまっしぐら突き進んでしまっています。
彼らの政策の背景には医療費亡国論があるようです。しかし、あんなものは高齢者が増えるから医療費が大変だ、という一つの仮説に過ぎません。仮説とそれに基づく政策がどのような効果を与えたのか、現状把握と検証とを繰り返しつつ次の仮説と政策へと進むのが科学的に当然のあり方なのに、彼らは全く検証をしません。政策失敗の責任も取りません。
最近では、臨床研修制度が非常によい例です。医局主導の研修の何が悪かったのかも十分に検証しないまま導入して、結果的に特に千葉県では夜間救急が穴だらけになりました。研修医に当直もアルバイトも禁止したわけですから、夜間の人が足りなくなるのは当たり前です。恐らく官僚たちは夜間救急を誰が担っていたか知らなかったんでしょう。そもそも医学部でOSCEなどやっているのに、同じようなことを卒後にさせる意味がよく分かりません。さらに、その制度の何が良かったか悪かったかも検証しないまま、また小手先で制度をいじり始めています。
彼らが検証しないのであれば、現場から意見を出さないといけないと思います。そうしないと、せっかく世界トップクラスに育っていた日本の医療が崩壊してしまいます。
――なぜ、今まで現場から声が上がらなかったんでしょう。
確かに発言しなさ過ぎでした。言ってもどうせ変わらないとあきらめていたのが一つ。それ以上に、目の前のことを一生懸命やっていれば、医師は満足できて幸せだった、社会も尊敬してくれた、ということなんだと思います。目の前の患者さんに没入して週100時間労働する、それが医師として当たり前の働き方でした。
そういった現場の状況を踏まえて官僚が政策立案していれば、随分と状況は違っていたと思います。医系技官は医師免許を持っているといったって、患者さんを看取ったこともなく、悲嘆にくれる患者さんと共に泣いたこともないわけです。だから我々は、彼らが現場を知らないと言うのです。