「後期高齢者入院基本料」を算定しない後期高齢者のレセプト、約3万6千件
厚生労働省の社会医療診療行為別調査(07年6月審査分)によると、90日以上入院している75歳以上の後期高齢者の患者約37000人のレセプトのうち、約3万6000件が「後期高齢者特定入院基本料」の算定から除外されており、一般病棟入院基本料を算定していた。(熊田梨恵)
厚生労働省が7月29日に開いた中医協の慢性期入院医療の包括評価調査分科会(分科会長=池上直巳・慶大医学部教授)に報告した。
前回の診療報酬改定で新設された後期高齢者特定入院基本料は、検査や投薬などを含める包括の入院基本料で、90日以上入院する後期高齢者を「特定患者」として一日当たり928点を算定するもの。ただ、この入院基本料については現場から「点数設定が低く、必要な医療を提供できなくなる」との批判が多い。
後期高齢者が入院した場合、在院日数が90日以内であれば「一般病棟入院基本料」を算定する。看護配置が15:1だった場合、「一般病棟入院基本料」は一日当たり954点で、「後期高齢者特定入院基本料」の928点を上回る。このため、後期高齢者特定入院基本料は慢性期の高齢者の患者を抱える病院の経営を脅かしていると言われる。
ただ、この入院基本料には特定患者からの除外を受けられる"抜け穴"の規定がある。一月に二週以上は週三回のリハビリテーションを実施していたり、一月に一週以上人工呼吸器を使用していたりするなど、一定の基準を満たす後期高齢者の場合、90日以上入院していても、一般病棟入院基本料を算定できるというものだ。
武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)が第2回会合に示した一般病床の入院基本料の算定を示したフローチャートに分かりやすく示されている。
武久委員はこれまでの会合で、特定患者から除外される患者の存在を指摘しており、同じ慢性期医療を提供しながらも、一方は出来高払いで、もう一方は包括払いであることのバランスの悪さを問題視していた。
今回事務局がこの集計を出したのも、武久委員からの要望によるものだった。
事務局が提出した集計結果によると、3万6352件が後期高齢者特定入院基本料の算定対象から除外された患者のレセプトで、算定対象だったのは「おおむね600から700ぐらいの件数」(佐々木健保険局医療課課長補佐)。除外された患者の一日当たりのレセプト点数は2070点だった。
これについて、武久委員は「『特定患者』はほとんど除外されているということですね」と尋ね、事務局は「仰る通りで、『特定』じゃない方の方が圧倒的に多いということ」と回答。さらに武久委員が「ということは、『特定患者』を作っても意味がなかったと理解してもよろしいでしょうか。ほとんどが除外になってしまうなら『特定』しても意味がないと思うのですが、どうでしょう」と尋ねると、事務局は「特定の制度については中医協で議論していただくと思いますが、データ的に申しますと、かなり数が少ないのは事実」と応じた。
続いて三上裕司委員(日本医師会常任理事)は「特定入院基本料を非常に低く引き下げたため、そこ(一般病棟)にいられないので、そういう人たちは療養病床なり他の所へ行って、除外できる人だけが残ったということだと思います。特定入院基本料の方が、医療区分1のADL区分1、2(の診療報酬点数)より高いという方が非常に不思議な感じですけども、そういうことだと思うので、意味はあったと思います」と述べた。
- 前の記事中医協の位置付け、見えないまま
- 次の記事「コスト調査」という名の医療費抑制ツール