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「同じ報酬は問題」-医療区分3内の収支差に、中医協の池上慢性期入院分科会長

 厚労省が中医協の「診療報酬調査専門組織・慢性期入院医療の包括評価調査分科会」(分科会長=池上直己・慶応義塾大医学部教授)に示した、医療療養病床の患者分類ごとの収支差によると、医療区分3ではADL区分の1と3の間に、一日当たり約5000円の差があった。診療報酬自体はADL区分によって変わらないことから、池上分科会長は「費用の面では差があるが、報酬としては同じになっているのは大きな課題」との見方を示した。(熊田梨恵)

級地別収支差.JPG 左の表は、これまでの会合で示された「2008年度慢性期入院医療の包括評価に関する調査」のコスト調査について、都市部と地方の違いを検証するために事務局が提出したデータ。左側にある「1-6級地」の「級地」は、診療報酬の地域加算の算定対象になる地域を区分けしたもので、物価や人件費などのコスト考慮され都市部になるほど高い点数になるよう設定されている。たとえば、「1級地」は東京都の特別区のみで、地域加算は一日当たり18点。6級地は同じ東京都だと瑞穂町や東大和市で、3点となる。「その他の地域」は、「級地」に挙げられていない地域の集計結果になっている。

 要介護度などによる患者への手間のかかり具合を加味したデータが上の[図表14]になる。下の[図表15]は手間がかかる具合を等しく案分して出されたもの。
 
 [図表14]で「1-6級地」の医療区分3を見ると、ADL区分1は一日当たり5047円の黒字だが、ADL区分3になると210円の赤字。ただ、診療報酬では医療区分3はどのADL区分であっても「入院基本料A」を算定することになるため、一日当たり1万7090円の収入。同じ報酬額であっても、ADL区分によって収支額に差が出ることになる。
報酬額.JPG
 医療区分1や2も同様だ。医療区分2はADL区分2と3が同じ一日当たり1万3200円の報酬(入院基本料B)だが、収支差を見るとADL区分3は192円の赤字なのに対し、ADL区分2は278円の黒字。医療区分1はADL区分1と2が同じ一日当たり7500円の報酬(入院基本料E)だが、ADL区分2が3547円、ADL区分1は1026円のそれぞれ赤字。

 この差について、池上分科会長は、ADL区分によって患者にかかる費用に差がある一方で、診療報酬では同じ評価となっていることを問題視した。その上で、「コストと収益との関係を見る上で、やはり医療区分3が一括しているところに、両者の乖離が生じているのではないか」との見方を示した。また、三上裕司委員(日本医師会常任理事)も、「これぐらい離れると、やはり分類がよくないのか、診療報酬の方がおかしいのか」と述べた。


このデータに関する委員の発言内容をお届けする。

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三上委員(右)武久委員(左).jpg
[武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)]
ADL区分3医療区分1のところがマイナス3500や4000とかそういう状況でございますけども、普通でもこれだけマイナスになっているのに、医療区分1の中で手間のかかる患者さんが40何%増えていると、実態像はこれ以上のマイナスになっている可能性がある。たとえば医療区分3ADL区分3のところと相殺した時に、これだとトータルでマイナスになる可能性もある。そういうところで、医療区分1が例えば25%、医療区分2が50%、医療区分3が25%というのがレセプトの平均値だとすると、なかなかこの医療区分上での費用の差というもので計算すると、実質マイナスになっているんじゃないかと思います。それを是正するために、医療区分1ADL区分3(の診療報酬)を上げるというより、医療区分1の中の手間のかかる人を少し考慮していってあげたら有り難いのではないのかなというのが私の話。

[三上委員]
これは基本的には分類の妥当性のところに当たるのですけども。包括評価の中で分類が妥当かどうかというのは、コストが一定の幅にある人たちを一つの群にしてまとめて、包括の点数を与えるために正しいかどうかという話なので、これぐらい離れると、やはり分類がよくないのか、診療報酬の方がおかしいのか、どちらかだということではないかと思うのですけども。

[武久委員]

各論ですべてのところが黒字になったらむしろ利益が出過ぎるんじゃないかと思うのですけども、黒字から赤字を引いたところが少なくともマイナスにならずにプラスになっておればいいのかなと。前の分科会でも「恣意的に」と言いましたが、「医療区分1は介護に行くように」という流れを作るという意図もあったと聞いています。この部分がマイナスだから黒にしないといけないということにはつながらないと思うのですけども、トータルで引いたときに黒字になるように、医療区分の制度というより、診療報酬の方の付け方かと思います。患者分類はどんな形にしても完璧というのは多分ないので、どこかである程度妥協しながらやっていくものだと思いますが、どこかで診療報酬にリンケージしてくるよう、ある程度データとして納得いくデータにできたらと思っています。

[池上分科会長]
研究者としての発言ですけども、もしこの療養病床を持っている病院の療養病床群の収支について見るのであれば、医療経済実態調査で確認しないと、全体としての収支はこのデータからはちょっと難しいと思います。

(中略...このデータ以外の話題が他の委員からも上がる)
池上慢性期分科会長.jpg

[池上分科会長]

先ほどADL区分1医療区分3の中でのADL区分1、2、3の収支というところで見ていますけども、確かにADL区分1の構成比は低いんですが、ADL区分3、2においてはそれなりの構成比があります。逆に言うとこれだけADL区分によって大きな構成比が占めているにもかかわらず、診療報酬上はAとして均一にくくられているというところに問題があって、確かに一番それが極端に見えているのはADL区分1ですけども、それ以外の2と3の間にも費用の面では差があるけども、報酬としては同じになっているという点は数の上では大きな課題だと思います。これも点数はどうするかというのはこの分科会の所管事項ではないですけど、コストと収益との関係を見る上で、やはり医療区分3が一括しているところに、両者の乖離が生じているのではないかという気がいたします。

[猪口雄二委員(医療法人財団寿康会理事長、全日本病院協会副会長)]
これをさっきから眺めていると、「1-6級地」では医療区分1がすごく少なくて、収入が若干平均として多いと。費用も3%ぐらい余分にかかっているということ。考えようによっては、級が付いているところでは医療区分1を無理に少なくして、医療区分2、3を多くすることによって何とか経営を成り立たせているという風にも見えるわけで、同じように慢性期の介護保険施設の場合には介護の単価があれだけ地域によっての差が付いてきている【編注】にもかかわらず医療はほとんどわずかな点数しかない、というような事実から考えると、これがこのままでいいのかどうか。この分科会のマターでないとは分っているが、少し気にしないといけない部分になってきている気がするので言わせていただいた。

【編注】...介護報酬は1単位当たり10円が基本だが、地域ごとに異なる「地域加算」がかけられて報酬額が算出される。地域加算の対象地域は特別区、特甲地、甲地、乙地など細かく分類されており、加算額はサービスごとに異なる。
 

[三上委員]
基本的には(収支差の表の)右上が黒が多く、左下が少なくなるようなリニアな形に収支差のばらつきがあるのはいいじゃないかと思う。ADL区分1、2、3は要介護度のような介護の手間に関するコストを評価していこうと。医療区分1、2、3は医療資源の投入量がどれぐらいかということ。それを足したものが診療報酬として反映されて、その差は微妙に右上の医療区分3、ADL区分3が一番多くて、医療区分1ADL区分1が一番少ないという形。右上が濃くて左下が薄いという設定がいいと思いますから、医療区分3ADL区分1の方が、医療区分2のADL区分3よりも点数が低くてもありうるのではないかという気もいたします。
 
[池上分科会長]
点数まではこの分科会では建議できませんので、収支の差がこのようになっているというということを指摘したまででございます。

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