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「コスト調査」という名の医療費抑制ツール

田中滋分科会長0729.jpg 医療機関のコスト調査について、中医協・基本問題小委員会の診療側委員からは疑問点や質問が出されたが、支払側委員は前回調査よりも好意的に受け入れた。コスト調査が医療費抑制ツールの1つになるからだろう。(新井裕充)

 厚生労働省が主導する医療機関のコスト調査は当初、来年4月の2010年度診療報酬改定から実施するとの見方もあったが、7月29日の中医協・基本問題小委員会で見送られた。コスト調査のデータが診療報酬改定に反映されるのは、早くても2012年度改定からになる。

 診療報酬と病院の運営コストとの関係をめぐっては、「診療報酬とコストが対応していない」「エビデンスに基づく診療報酬改定が行われていない」との声をよく聞く。
 このような声が診療側委員から出れば、「コストを診療報酬できちんと評価してほしい」という意味。例えば、ベッドサイドで患者の悩みや相談に乗ることなど、診療報酬が支払われない行為がたくさんある。

 しかし、厚労省や支払い側委員が「診療報酬のエビデンス」などのフレーズを口にするときは、「コストをカットして適正化を図れ」という意味になる。つまり、厚労省が検討を進めているコスト調査は、病院団体などが求める「コストを反映した診療報酬改定」とは正反対。支払い根拠が不明確な点数を洗い出して診療報酬を切り詰める医療費抑制ツールの1つでしかない。

 このコスト調査の最大のキモは「階梯式配賦法」という計算手法。パッと聞いただけではイメージ不能な難解用語だが、それも作戦の1つかもしれない。きっと、一部の者にしか分からない方が都合がいいのだろう。

 調査を実施した中医協分科会の資料によると、「階梯式配賦法」とは、病院の診療科や部署(病棟、外来診療室、手術室、医事課等)を「入院部門」「外来部門」「中央診療部門」「補助・管理部門」の4部門に分け、そのうち「補助・管理部門」「中央診療部門」の収益・費用を段階的に「入院部門」「外来部門」の各診療科に配分するという。

 分かるような、分からないような......。

 例えば、総務や経理の担当者など収入を生まない職員もいるし、手術室の維持・管理に掛かる費用がどの診療科の費用に対応するのか明確ではない。そこで、病院全体の費用をいったん4つの部門に割り振り、「入院部門」「外来部門」の各診療科に配分する。しかし、今回の調査からは、この途中経過が見えない。
 
 いや、見えないようにするのがミソなのかもしれない。配分ルール(階梯式配賦法)を変えれば収支は変わる。配分のやり方次第で、政策的かつ恣意的に一定の傾向度を示すデータを演出することができる。

 コスト調査分科会が2008年度の調査結果を報告した同日の基本問題小委員会では、各委員がさまざまな反応を見せたが、診療側委員は一様に配分の問題を指摘した。

 藤原淳委員(日本医師会常任理事)は、「(階梯式配賦法という費用)配分の方式が良かったかどうか。例えば、『中央診療部門』などの配賦によって、外来と入院のニュアンスも相当変わってくる」と指摘。西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)は、「とりあえず手法としては確立した」と評価しながらも、「まだまだ配賦の問題などいろいろあると思う」とくぎを刺した。

 山本信夫委員(日本薬剤師会副会長)は、「もしデータがあれば途中経過をお示しいただけないものか」と求めたが、もちろん却下された。

 支払側の対馬忠明委員(健保連専務理事)は、診療科別のコストを比較する場合には、自由診療の収入を考慮する必要性があることを指摘。公益委員の牛丸聡委員(早稲田大政治経済学術院教授)は、対象を広げるための調査の簡素化と精度の関係を質問した。

 コスト調査分科会の報告に対する委員の反応について、詳しくは次ページ以下を参照。


 【目次】
 P2 → 「多数参加できるよう簡素化の方法を検討したい」 ─ 田中分科会長
 P3 → 「配賦によって外来と入院のニュアンスも変わってくる」 ─ 藤原委員
 P4 → 「まだ早い。とりあえず手法としては確立したという段階」 ─ 西澤委員
 P5 → 「自由診療が入っていると、非常に影響が大きい」 ─ 対馬委員
 P6 → 「途中経過ぐらいは、お示しいただきたい」 ─ 山本委員
 P7 → 「簡素化によって、精度が阻害されるか」 ─ 牛丸委員

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