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ニュース〜医療の今がわかる

『患者の経済負担を考える』


 ドラッグラグ、デバイスラグにしても、日本の承認が遅かったり、パスされたりすることも問題だが、患者にとっては医師が使えないことが決定的に重要である。先進国承認の抗がん剤など適応外使用も含めて堂々と行えるようにすべきだ。適応外使用などは堂々と行われるべきであるし、保険収載は並行して検討するとしても世界標準のものはすぐ解放し、混合治療として始められるようにすべきである。

 混合診療というと、厚労省も医師会も学者も患者団体も医療の安全性が損なわれる、患者に危険な医療が実施される、実験的医療のモルモットにされるという危惧が挙がる。一部にはそういう医師もいるだろうが、その一部のために大部分の良心的な医師と窮地に陥った患者の命が犠牲になってもいいのか。メリットとデメリットを冷静に考えてほしい。どんな安全な薬にも副作用はある。まして命の懸かった治療薬である。正確な情報開示による患者の意志決定を優先すべきである。そもそも安全性などほったらかしの自由診療、民間療法はどうなのか。医療の安全性を担う法律は医師法、医療法、薬事法などがある。それで足らなければ立法して、保険医療機関では原則として混合診療を可能にすべきである。たとえ解禁になっても保険医療機関ではそのような民間療法は扱わないだろうが、ただ想像されるほど民間療法が危険なものだろうか。がん患者などで様々な民間療法を試している人は多いが、事故や死者は意外と聞かない。たまに事故や犯罪による被害が報じられるが、大部分は効き目もなく副作用も弱いのではないか。むしろ効果が大きく、副作用も強い保険薬や保険治療の方に事故や被害が多いというのが自然な実態ではないか。リスクのない治療などありえない。効果とリスクという矛盾の上に、結果を保証できない治療はバランスをとって行われるのである。

 その視点を一歩進めると、風邪や高血圧症など軽度の感染症や慢性病(軽度とは命の危機に直結しないという意味だが)は標準的な保険治療で十分だが、生命や生活の懸かったがんその他の難病では十分ではないということである。世界標準だが日本で認められず使えない約4割の抗がん剤だけでなく、実験的なものも含め、様々な先進的治療を進んで受けたい患者もいる。国は個々の患者の治療選択に基本的に介入すべきでない。その保険収載には介入できるとしても。科学的でない民間療法などは論外だが、一定の技術水準の保険医療機関においては、主治医と患者に医療の選択権を認めるべきである。すなわち混合治療を可能にすべきである。もちろん重要な前提条件は3つある。1、実施不可医療機関の規定、2、実施の際の義務規定(患者への十分な説明と同意)、3、違反に対する厳罰規定である。

 さらに医療の進歩のためにも公認された先進医療の臨床的なデータの蓄積は不可欠である。そのために現在も治験や高度医療評価制度があるという反論があるかもしれぬが、時間、コスト、手続きなどのハードルが高すぎて患者にとっては机上の空論である。一体どれだけの患者が高度医療評価制度で救われた事実があるのか。国民の半分が罹るといわれるがん治療の最前線では「もう治療はありません。ホスピスに行ってください」という絶望の宣告で患者は投げ出されているのである。しかし、それは保険適用がないだけであって、このように宣告する前に世界の標準薬や科学的な先進治療を患者のために行う医師は多いといわれる。しかし、潜行して行われるそのような治療は危険性もあるし、臨床データの蓄積にもならない。患者の安全性のためにも医療の進歩に資するデータの蓄積と公開のためにも潜行でなく、堂々と混合診療を行えるようにすべきである。

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