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ニュース〜医療の今がわかる

〔新生児医療の教育現場から①〕若手医師から医療界に提言し、現場を変える


■「最高水準医療の追求」が終わった時代の教育は?
脳波の見方セミナー.jpg こうした状況の中、いかに働きやすい環境に改善し、若手に新生児医療を続けてもらうモチベーションを維持してもらうかが課題になっている。同学会教育委員長の田村正徳氏(埼玉医科大総合医療センター総合周産期母子医療センター長)は、「昔は新生児科医のポストすらなかったが、今はポストがあってもそこを埋める人がいない状態。今は、昔のように『背中を見てついてこい』という形の教育ではやっていけなくなった。私たちが若い頃は、新生児死亡率が下がることを目標にしてきたし、数字に表れればそれが"ご褒美"。しかし、それを今の若い人たちにも生きがいにしろ、というのは酷なこと。仕事だけでなく、家族も大切なのだから、それが保障できるような環境にしたい。セミナーの中でもそういうことを考えてもらう時間を取っている」と語る。
 
 このため、同学会の教育セミナーは、講義や実技講習だけでなく、労働環境の改善や新生児医療の今後について自発的に考えてもらいながら双方向のコミュニケーションを起こすワークショップに重点を置いている。「NICUでの交替制勤務の賛否」「新臨床研修制度での新生児医療」「NICU長期入院児を在宅医療に移行するには」など6つのテーマでグループ分けし、自己紹介から始まって、グループとしての主張を決めるためにディスカッションし、発表用にスライドや寸劇などを考える。講師は司会進行などを担うが、成果物や主張に対しては口を挟まず、グループの主体性に任せる姿勢が基本。2泊3日のうち、ワークショップに充てられたのは6時間程度で、インターネットなども使い情報収集しながら、最終日に行う全体発表のための準備をする。チームワークをいかに発揮するかが、短時間で成果をまとめるカギになる。 
(関連記事...交替制勤務長期入院児退院支援
  
 東京女子医大の楠田聡教授は、「他の診療科でもこうした教育セミナーなどは実施しているが、リクルートの要素も強い。こんなふうにプロダクトを出すワークショップをしているのはこの学会だけだと思う」と話す。また、「医師はこういう形で一つのプロダクトを作るという経験があまりないので、集団でのコミュニケーションというトレーニングにもなる」と話す講師もいる。
 
 全体発表となる最終日には、すべてのグループが約20分ずつ報告を行い、質問も受ける。グループで行った議論をいかにうまくプレゼンテーションの中に落とし込み、主張について納得させるように発表するかが重要だ。若手医師からは、交替制勤務と複数主治医制を導入した働き方、一定の医療行為も行えるNPの活用、地域の医療・福祉サービス資源と連携した長期入院児の退院支援、新生児蘇生法に重点を置いた臨床研修など、さまざまな提案がなされ、それぞれが寸劇や動画を活用するなど自由に主張を展開した。
 
 今回のワークショップで1位を獲得したグループのテーマは、「新生児医療とインターネット、ホームページの活用」。NPOを設立し、企業と連携して医師の求人やオンライン教育に関するポータルサイトを構築し、医師不足の解消や医療の標準化につなげるという提案だった。アイディアやプレゼンテーション能力、動画や画像処理を用いたスライド作成能力などに優れているという評価だった。このセミナーで優勝すると、系列の学会の演題発表に同じメンバーで参加することができ、学会が発行する雑誌にも内容が掲載されるなど「教育の機会」という特典もある。
 
 田村氏は、「『新生児専門医』も、このワークショップから構想が始まった。ただ発表するというだけでなく、学会としての今後の活動にもつながっている」と話す。また、このセミナーに参加した若手医師の約8割が今でも新生児医療に携わっており、研修に参加することでネットワークができ、モチベーションの維持にも役立っているという。
 
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