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ニュース〜医療の今がわかる

〔新生児医療の教育現場から③〕責任と自覚を持たされれば、研修医は育つ

篠塚淳さん.jpgインタビュー
篠塚 淳さん(卒後5年目、32歳)
宇治徳洲会病院 小児科(京都府宇治市)

 日本未熟児新生児学会(戸苅創理事長)の教育セミナーに参加した若手医師に、"医療崩壊"に対する意識や臨床研修制度など教育の在り方について聞いた。(熊田梨恵)

■〔新生児医療の教育現場から①〕若手医師から医療界に提言し、現場を変える
■〔②〕主治医制と交替勤務制、よりよい労働環境は?
■NICUについての詳細は、こちら

――今、世間では"医療崩壊"、"医師不足"と言われますが、現場ではどのように感じていますか。
 
マンパワー不足をいつも感じています。宇治徳洲会病院では小児科の中にNICUが併設されている形で、小児科医がNICUを見ていますが、NICUでは特にそう感じます。欲を言えば、もっと人がいるといいと思いますね。
 
――2004年に始まった、新しい臨床研修制度を受けてこられましたね。研修はいかがでしたか。
 
徳洲会病院では、初期研修の中で2か月と、後期研修で3か月、へき地・離島での研修がありました。私は奄美諸島の南西部にある喜界島の「喜界徳洲会病院」に研修に行きました。
 
――喜界島。まさに離島のイメージですね。
 
喜界島は人口約8000人で、徳洲会病院には約100床あり、急性期と療養型など介護の必要な方が入るベッドが半々の数でありました。病院には毎日100人ほど外来患者さんが来られました。医師は、初期研修医が1人と後期研修医が1人で、この二人で内科を診ます。ほかに外科系医師も1人いて、3人体制です。色々な病気の患者さんが来られるので、自分が何でも診なければいけない状況でした。患者さんを断れない環境です。くも膜下出血や心筋梗塞、子宮外妊娠の妊婦さん...。本当に様々な方が来られますが、自分が診なければ、その方の命が危ない状況です。そういう状況が重なってしまうと、医療側が潰れてしまう可能性も秘めています。
 
■「自分にもできることがある」という実感
――医師免許を取得したばかりの時期に、かなり難しい状況も経験されてきたと思いますが、研修からどのようなものを得られましたか。
 
医療は現場にとって負荷が大きい時と小さい時の差がかなりあり、まさに"綱渡り"の医療です。そういう負荷が大きい中だったからこそ、自分ができることはこれだけあるということが分かってきました。目の前の患者さんに対して「研修医の自分でも何かできることがある」という実感です。そう思える場を提供してもらえたことが、とても大きかったと思います。患者さんに必要とされることは、何よりうれしいことで、医療の原点と言っていいかもしれないと思っています。そのように感じられると、さらにできることを増やしていきたいというモチベーションにつながります。これは高度に専門分化が進みつつある都会の研修ではなかなか実感できないものです。専門以外は診るのが怖いし、また診なくても誰かが見てくれる状況があれば、得意分野だけを診る方がいいし、トラブルや訴訟のリスクも少なくなります。そのような状況での研修だと、身を守るためにも自分のできることを狭めてしまいがちだと思います。
 
患者さん側の意識の違いもあります。研修医ではなく、上級医を、専門医をと求められると、自分たちにできることがあってもできなくなります。そういう意味では、島の雰囲気で、のびのびと医療が出来たことは幸せだったと思います。もちろん自分がなんでもできると過信するのではなく、むしろ自分の出来ないところをしっかり確認して、島外へと搬送できるという前提が大事だと思いますが。
  

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