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ニュース〜医療の今がわかる

新型インフルエンザについて ─ 感染研・田代センター長

■ 医学以外の対策 ─ 水際作戦、行動制限、個人的対応
 

── どのような対策が必要でしょうか。

1. 水際作戦
 新型インフルエンザの対策をどうするかということが一番大きな問題ですが、「これさえやっておけば絶対に大丈夫」という方法はないのです、残念ながら。いくつかの有効と考えられる方法を組み合わせて総合的に取り組む必要があります。
 新型インフルエンザ対策は大きく、「医学以外の対策」と「医学的な対策」に分けて考えることができます。これらを全部動員して、最終的な流行規模を少しでも小さくすること、健康被害を減らすことが必要です。

 「医学以外の対策」は大きく分けて、「水際作戦」「行動制限」「個人的な対応」の3つが考えられます。
 まず、「水際作戦」について。新型インフルエンザは日本で発生するのではなく外国から入ってくる可能性が高いので、「水際作戦」が必要になります。空港などでの検疫ですね。しかし、インフルエンザの潜伏期を考えれば、これには限界がありますし、今回の場合は、弱毒型のウイルスでしたので、少しやりすぎと言いますか、強毒型に対する厳しい対応を機械的に行ってしまったという部分もあったと思います。

 ただ、最初の発生段階ではどのような状況か分からないし、メキシコで大勢死んでいるのだから、最悪のシナリオも念頭に置いて厳しい対応を取ること自体は、「危機管理」という考え方からすれば決して責められることではないと思います。
 ただ、その後にいろいろな状況が分かってきました。「そんなに厳しくやっても、すり抜けてしまう人がたくさんいる」ということが分かってきましたので、その切り替えが少し遅れたのではないかと思います。

 しかし、水際作戦を5月中旬から緩めたのですが、その後ずっと海外からの感染者が増え続けたわけです。ですから、やっぱり「水際作戦」というのはそれなりの効果があるんだと思いますけどね。もう少し効果的なやり方で続けていても良かったのですが、そこがスポーンと抜けてしまった点が心配なところです。
 今回のH1N1新型インフルエンザについては、「水際作戦」はもう必要ないと思いますが、今後また、H5N1のようなウイルスが入ってくる可能性がある。ですから、強毒型の新型インフルエンザの際には、本気で「水際作戦」をやらないと大変なことになります。100%防げるわけではないけれど、少しでも国内への流行拡大を抑えるために、国内の医療体制とのバランスを考えて、「水際作戦」を念頭に置かなくちゃいけません。「やらなくていい」という問題ではありません。

2. 行動制限
 それから2番目として、国内にウイルスが入ってきてしまった場合です。何もしなければどんどん広がっていってしまう。一気に大勢の患者さんがドーンと出て、医療のキャパシティーを超えてしまいます。
 では、この最悪の自体を防ぐためには、どうしたらいいか。流行のピークを平坦化させることが必要です。医療機関が受け入れられるキャパシティーを超えないように抑える。さらに流行の拡大を遅らせて、対応のための時間を稼ぐことが必要です。
 そのためには、行動制限が必要になります。食料を買い置きしておいてなるべく買い物に出ないようにしたり、在宅でできる仕事は自宅でやるようにしたりすることが必要です。ただ、これは命令してできることではなく、それぞれの人に自主的にやってもらうしかありません。

 問題は、通院の患者さんです。例えば、人工透析は在宅ではできませんから、どうしても病院に行かなければいけない。しかし、慢性疾患で通院している患者さんなどは薬を多めにもらっておくなど、なるべく通院する回数を減らすようにすることが必要になります。
 また、インフルエンザの患者さんと一般の患者さんを分けるため、「発熱外来」や「発熱相談センター」なども必要だと思います。現在、比較的マイルドな大流行ということで、発熱外来等の設置を止めてしまった自治体もありますが、必要な場合にすぐに設置できるように計画を再検討すべきでしょう。
 ただ、1回のピークが6週~8週間続きますので、その間まったく外出しないわけにもいかない。なかなか難しい問題です。

3. 個人的対応
 3番目の対策は、個人的な対応です。手洗いやマスクなどが考えられます。手洗いは接触感染を防ぐためにこまめに行うことが重要です。マスクは予防にはある程度役に立ちますが、むしろ感染を広げさせないために患者さんにマスクをしてもらうことが大切です。

 それから、うがい。どれぐらい効果があるか分かりませんが、うがいも対策の1つとして考えられます。このほか、無理をしないで体力を蓄えておくとか、「咳エチケット」とか、そのような個人的な対応が必要でしょう。ハンカチをしないで咳をまき散らすと、たくさんの人に感染を広げることになりますから、最低限のエチケットとして守っていただきたいと思います。


【目次】
 P1 → 新型インフルエンザ(H1N1)とは
 P2 → 医学以外の対策 ─ 水際作戦、行動制限、個人的対応
 P3 → 医学的な対策 ─ ワクチン、抗ウイルス剤、医療体制
 P4 → ワクチンが足りない
 P5 → ワクチンの情報共有と透明化が必要

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