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ニュース〜医療の今がわかる

新型インフルエンザについて ─ 感染研・田代センター長

■ 医学的な対策 ─ ワクチン、抗ウイルス剤、医療体制
 

── 医学的な対策としては、どのようなことが考えられますか。

1. ワクチン(感染前)
 「医学的な対策」には、ワクチン、抗ウイルス剤、医療サービスの提供という3つの柱があります。まずワクチンですが、これは決してオールマイティではない。100%効くわけではない。現在のところ、ワクチンの量も十分ではない。この点については、後で詳しくお話しします。

2. 抗ウイルス剤(感染後)
 2つ目は、感染した後のことですが、タミフルやリレンザなどの抗ウイルス剤を適切に使うことです。特に、重症化しやすいハイリスクの患者さんにとっては有効な方法です。
  「ウイルスに感染したかな?」と思った段階でこれらを予防的に使うことも考えられなくはないのですが、予防投与の間に耐性のウイルスが出てしまうことがあります。ですから、なるべくハイリスクの患者さん以外には予防投与はしないほうがいいと考えられています。普段健康な人の場合には、まずゆっくり寝ているのが一番良い方法です。
 これに対して、妊婦さんや乳幼児、基礎疾患を持ったハイリスクの患者さんは、「かかったかな」と思ったらすぐに使う必要があります。熱が出てから48時間以内に投与してください。医療機関をすぐに受診して、薬をもらって治療することが大事です。

 ここで問題になるのが、日ごろ健康な人の場合です。通常なら、自宅で4~5日ぐらい寝ていれば治るはずですが、重症化する場合もある。そこで、どう区別したらいいのか、これが難しい。薬がたくさんあれば、全員に飲ませればいいということも言えるでしょうが、なかなかそうもいかない。

 そこで、健康な人はとりあえず自宅でゆっくり寝てもらい、重症化のサインが出たらすぐに医療機関を受診してほしい。問題は、「重症化のサイン」です。
 重症化する場合に考えられるのは肺炎です。肺炎の最初の症状は呼吸困難です。「はあ、はあ」と呼吸が浅くなって回数が増えたら酸素不足の兆候なので、危ないです。
 それから、「チアノーゼ」というのですが、顔色が悪くなること。顔が土色や紫色になったり、耳が赤くなったりする。これも肺炎を起こしている可能性があるので危ない。主に、この2つが肺炎の兆候ですから、これを見逃さないことが大事です。

 また、5歳未満の小さいお子さんの場合は脳症を起こす恐れがあります。これも急に来ますから、よく見ていないといけません。変な言葉をしゃべったり、意識レベルが下がったりしたら注意です。問い掛けた時に、普段のようにまともに答えないとか、なんか変なことを言うとか、こういう場合は危険な兆候です。
 それから、けいれんやまひが起こったり、足を引きずったり、そういうサインがあった場合は脳に何らかの問題が起こっているサインですから、急いで医療機関で適切な治療を受けなければいけません。

 インフルエンザにかかると脱水症状を起こすので、注意が必要です。体の中の水分が少なくなって血液が濃くなると、いろいろな障害が出てきます。このほか、尿が出なくなったり、尿の色が濃くなったり、下痢や吐き気など、こういう場合も気を付けなければいけません。重症化のサインです。医療機関を受診して、入院が必要になる場合も出てきます。

 これらは健常者の場合ですが、基礎疾患を持っている人はインフルエンザを引き金にして、もともと持っている病気が重症化する恐れがあります。心不全がひどくなったり、腎機能がさらに悪くなったりします。妊婦さんの場合は、お腹の赤ちゃんにも影響する可能性がありますので、流産の危険性もあります。

3. 医療体制の確保
 医学的な対策の3つ目として、医療体制の確保が重要です。重症患者がたくさん病院に来る。軽くても、基礎疾患を持った人が大勢病院に来る。そうすると、医療サービスのキャパシティーを超えてしまいます。季節性インフルエンザでも、患者数が多い時は毎年そうですが、特に新型インフルエンザの場合は医療機関に患者が殺到してパンク状態になる恐れがあります。

 そこで、医療体制をどのように確保するか、これは世界中で悩んでいる問題です。ベッドや人工呼吸器を増やさなければいけないし、いろいろな対策が必要ですが、これは急にできることではないので頭の痛い問題です。各都道府県や病院で対応が進んでいると思いますが、非常に難しい問題です。

 以上、医学以外の対策、医学的な対策について説明しましたが、どれか1つだけで100%うまくいくということはありません。総合的な対策が必要です。
 特に大切なのは人混みに出ないこと。それから、感染した場合に備えて計画を立てておくことが必要です。「職場で感染者が出たらどうするか」「お母さんが寝込んでしまったらどうする」など、あらかしめ対応策を決めておくべきです。独り暮らしの高齢者の場合は、日ごろから隣近所の人や民生委員などと連絡を取っておくことが大事です。


【目次】
 P1 → 新型インフルエンザ(H1N1)とは
 P2 → 医学以外の対策 ─ 水際作戦、行動制限、個人的対応
 P3 → 医学的な対策 ─ ワクチン、抗ウイルス剤、医療体制
 P4 → ワクチンが足りない
 P5 → ワクチンの情報共有と透明化が必要

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