プロ野球観戦が患者や家族、医療者の交流の場に-横浜ベイ村田選手のプレゼント
豊島医師は、「こういうところに来ると僕らも励まされるし、頑張ろうと思えます。みんなNICUがなかったら存在しない子どもたちです。みんなが笑顔で野球を楽しんでいる姿を見ると、こういう笑顔を守りたいと思うし、大変だけど自分たちがやっていることを大事にしていこうと思えます。いろんな世代や立場の人が集まって、子どもが大きくなっているご家族は小さいお子さんを見て昔のことを思い出すし、小さいお子さんのご家族は子どもが大きく育つイメージができます」と語る。今後は参加者同士のメーリングリストを作成し、情報交換や悩みの共有の場として活用していくという。
■病気の子ども持つ親へのサポートが課題
ただ、こうして野球観戦に来ることができる家族は子どもの経過も順調で、外出ができる状態にある家族だ。子どもが重度の障害を抱えていたり、家庭の事情などにより外出もままならない場合もあったりするため、家族が休養できたり、医療・介護サービスを使えるようにしていく体制の整備が必要だ。在宅で重症児を見ている親など230人を対象に、神奈川県内で実施された調査によると、介護者が休養を「全くできていない」と答えた人が32%で、「時々している」が29%、「定期的にできている」は15%にとどまっていた。在宅で生活する重症心身障害児についての正確な統計はないが、約2万人とみられている。神奈川県立こども医療センター小児科の渡部玲子看護師長も、「家族が地域で生活できるようなサービスが整っていないので、訪問看護など在宅医療の体制を整備してもらいたいです」と話す。
国はNICUの退院を円滑に進めるための在宅医療の体制整備を進めるため、来年度の概算要求として、NICUに長期入院する子どもが在宅に戻れるようトレーニングを行う「地域療育支援施設(仮称)」のモデル事業実施や、レスパイトケアを実施する病院への支援に2.3億円を計上している。積極的に在宅医療体制の整備を進めていこうとする自治体もあり、東京都では院内に退院支援コーディネーターを配置するなどのモデル事業の実施を予定している。
豊島医師は家族に対するサポートは医療者や行政だけが行っていくものではなく、それぞれが関わり合いながらつくるものと話す。「家族のことを考えていくのは医療者だけでなく、家族同士でもあります。村田選手が野球選手でもできることとして、こうして考えてもらえることはありがたいことだし、この観戦イベントもお互いをいたわり合う気持ちでできているものです」と語る。在宅医療の体制などの整備には予算が必要になるため行政の積極的な支援は不可欠だが、実際に子どもたちと暮らしている家族同士が交流する場を、家族自身が考えていくために、医療者や行政がサポートしていく形も一つの在り方ではないだろうか。
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