政権交代、「チャンスを機に日本を良くする」 ─ 本田宏氏の講演
■ 医療崩壊を食い止めるのは、国民みんなの社会的責任
村上龍さんが、パリのダカールラリーに日本のメディアの方と行った時に、こういう経験をしたそうです。パリのダカール、砂漠ですね。あるテレビ局のプロデューサーがペットボトルにマジックで自分の名前を書いたのを見て、現地スタッフが怒り狂った。
日本では、ペットボトルに名前を書いても、怒り狂われないですよね? せいぜい、「リサイクルがしにくいんじゃない?」と言われるくらいなもんで。
ところが、砂漠では水は何よりも大切なものだから、砂漠でペットボトルに名前を書くなんていうことはおかしいと怒られたそうです。さて、日本はどうだったでしょうか。こういう価値観が崩れていますね。
皆さん、ご存じのように、ある良い学校を出た、なんとかバンクの社長さんが「お金を儲けて何が悪いんですか」と言ったのを覚えていますか?
あと、超優秀だっていう(日本)銀行総裁だった人が自分の株取引を国会で質問されて、「私、ド素人ですから」って答えているんですよね、日本では。「ド素人のあんたが、なんで日本の利率を決められるの?」って、テレビに向かって突っ込んでいました。 (会場、笑い) なんであなたが決められるの?
私は全国でこう講演しています。誰でも幸せになりたい、自分だけ、自分の家族だけ、そして自分の国だけ幸せっていうのは可能だと思いますか? うんと偉い人はこれ、可能だと思っているみたいですよ。不可能です。
どんなにお金があっても。自分の子どもさんが病気で生まれたり、交通事故で自分の関係者がどこかで倒れても助けられますか? アメリカの大統領みたいに、いつも医師を連れた飛行機で行けるわけではないですよ、いくら金があったって。みんなで助け合わないと。
実は私、「医者になってよかったな」と思うことは、これが分かったことです。目の前でどんどん病気になってお亡くなりになる人がいるんです。私は一般外科医ですけど。私の目の前で17歳の男の子で大腸癌で亡くなった方、2人見ました。17歳ですよ。
どんなにお金があっても、みんなが治るわけじゃありませんよね、病気になったら。いつ将来、明日がどうなるか分からないわけでしょ? そういうことを分からない人が日本を牛耳ってルールを決めてきたんですね。というのが、私の問題意識です。
世界には水も飲めない、ミルクも飲めない方がいる。国民健康保険を滞納して、病院へのアクセスも悪くなっている。ご存じですよね? 糖尿病の方が薬を飲めないで悪化する。よくある話です。
正しい情報なしでは、医療崩壊は加速するばかり。このままでは医療ばかりが崩壊する。医療崩壊を食い止めるのは、国民みんなの社会的責任。と、全国で、もうちょっと冗談をかましながら笑わせながらやっているわけでございます。
やっぱり、正しい情報でも伝わらないと駄目なんですよ、皆さん。必ずしも、正しい情報が伝わっているわけじゃありませんから、日本は。これが怖いところです。
マーティン・ルーサー・キングさんが、こうおっしゃった。
「人は兄弟姉妹として共に生きていく術を学ばなければならない。さもなくば私たちは愚か者として滅びるだろう。後世に残るこの世界最大の悲劇は、悪しき人の暴言や暴力ではなく、善意の人の沈黙と無関心だ。後世に恥ずべきは『暗闇の子供達』の言動ではなく、『光の子供達』の弱さと無気力である」
私、この言葉、大好き。そして、日本人が言われているんじゃないかなって思うんですよ。いかがですか? (会場から拍手) 世界最大の悲劇は、善意の人の沈黙と無関心です。と私は思っています。
【目次】
P2 → 現場が分からない霞ヶ関がどんどんルールを決めていく
P3 → 全国各地が医師不足で医療が崩壊
P4 → 新政権に期待したいのは、新しい雇用の創出
P5 → 医療崩壊を食い止めるのは、国民みんなの社会的責任
P6 → 政権交代がない民主主義は、民主主義ではない