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製品供給不安で骨髄移植2月に2割減 日本の状況を米学会誌掲載

 今年はじめ骨髄移植に必要なフィルターの供給が途絶しかねない状況が生じていた問題に絡み、わが国の2月の骨髄移植実績が対前年比78%と他の月に比べて明らかに少なかったことが、アメリカ造血細胞移植学会学会誌(Biology of Blood and Marrow Transplantation)に掲載された論文で明らかになった。代替品を超法規的に迅速承認したために供給途絶こそしなかったものの、「代替品に保険が利くのかなど必要な情報を、厚生労働省などが適切に発信しなかったため、現場では移植を見合わせざるを得なかったと考えられ、患者に不利益が出ていたと推論できる」と論文を投稿した研究者は分析している。(川口恭)

narimatsubone.JPG 論文の筆頭著者は、成松宏人・東大医科研客員研究員(現・山形大学グローバルCOEプログラム 特任准教授)。国内問題が他国の学会誌に掲載されることは極めて珍しく、成松氏は「いかにこの問題が国際的な関心をひいているか分かる」と述べている。

 フィルターの供給不安は、わが国で唯一の承認製品を製造販売していた米バクスター社が、製品の製造部門を売却、代わりに完成品を別会社から購入しようとしたところその工場が予定通りに操業を始められなかったことから起きた。昨年12月17日になってバクスター社が各病院に対して「欠品する」と通告して表面化した。3月半ばに在庫が尽きる計算だった。

 日本造血幹細胞学会などが調べた結果、米国にバイオアクセス社という会社の代替品が存在することは分かったが、通常通りにわが国の承認審査や保険収載の手続きを踏んでいると3月に間に合わないことは確実だった。このため厚生労働省は、超特急審査をPMDAに働きかけ、2月26日に承認・保険収載も行なった。実際に製品供給が途絶えることはなかったのだが、こうした方針や見通しが厚生労働省から情報発信されていなかったため、そこまで実施を見合わせざるを得ない施設もあったと考えられる。

 成松氏は、「今になってみれば、フィルターの供給不安が治療現場に影響を与えていたのは明らかなのに、2月時点で骨髄バンクは大した根拠もなく『影響はない』としていました。骨髄バンクのガバナンス欠如が示唆されます」と言う。

 また実は、今回掲載されたのと同じ演題を今月開かれる日本血液学会に口演応募したところ落選し、ポスター発表に回されたという。論文の最終筆者である上昌広・東大医科研特任准教授は「厚生労働省の失策や骨髄バンクのガバナンス欠如を不問に終わらせるようなもの。アカデミズムが社会に対して専門家の責務を果たすという点で、日本の学界は米国のそれに遠く及ばないということが言えるのではないでしょうか」と話している。

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