「医師を強制的に配置する」 ─ 厚労OBが医療基本法の成立を求める
「もっと強力に拠点化・集約化を図って集中的に医師を配置していく。医師を強制的に配置をするような仕組みを導入する」─。医師の計画配置を盛り込んだ「医療基本法」の成立に向けたシンポジウムで、元厚生労働省官僚が吠えた。(新井裕充)
日本医療・病院管理学会(理事長=池上直己・慶應義塾大教授)は10月18日、東京女子医科大で学術総会を開催した。2日目の市民公開シンポジウムで、パネリストとして参加した元厚労省医政局長の伊藤雅治氏(全国社会保険協会連合会理事長)が次のように訴えた。
「医療提供体制の問題というのは、実は平成18年度の医療法の改正により地域医療計画、4疾病5事業、いわゆる連携体制を構築していくということになっていますが、この18年度の制度改正だけではとてもできないと思います。それはなぜかと言うと、やはりもっと強力に拠点化・集約化を図っていく。そして、そこに集中的に医師を配置していくということをどうやってそれを実現していくのかというのは、県庁の担当部局がペーパープランをつくるだけでは現場は動かない。そこをどうするか。従って、医師の不足、偏在の問題、産科・救急の問題、全部そこに帰着するのではないか」
伊藤氏はまた、医師の計画配置を盛り込んだ「医療基本法」の成立に向け、次のように抱負を語った。
「医師の偏在の問題を法律でやろうとしたときに、内閣法制局は『職業選択の自由(憲法22条)との関係で疑義がある』と、これは私が現役の時に言われているんですね。ですからそれを医療基本法の中で、ある程度、医師を、医師にかかわらず強制的に配置をするような仕組みを導入することが、国民的な観点から賛成か反対かという、医師会の反対だけじゃなくて、国民に対してそういうボールを投げて議論しながら決着を付ける。ですから、いかに医療基本法の中身を国民の目に見える形で議論していくか、それが(医療基本法成立への)プロセスとして重要ではないか」
このように、民主党政権下で現役の官僚が口を閉ざす中、厚労OBが後輩に代わって声高らかに「医師の強制配置」を主張している。ただ、「医師は絶対数不足ではなく偏在」と言い続けてきた厚労省のOBが「医師の強制配置」を求めることは決して不自然ではない。この発言自体には、大した話題性はないだろう。
注目したいのは、伊藤氏がどのような場で発言したかということ。シンポジウムの主催者やパネリストは以下の通り。勘の良い人はこれを見ただけで分かるかもしれない。長妻昭厚労大臣の下で、新たな政策集団が活発に動き始めたことを......。
○ タイトル
・ 今、医療基本法を考える ~いのちを救うグランドデザイン~ (配布資料)
・ 今、医療基本法を考える ~医療再建の切り札~ (学会プログラム集)
○ 主催者
東京大学医療政策人材養成講座(HSP)医療基本法プロジェクトチーム
○ シンポの司会
埴岡健一氏(日本医療政策機構理事)
○ パネリスト
伊藤雅治氏(全国社会保険協会連合会理事長、元厚労省医政局長)
田中秀一氏(読売新聞医療情報部長)
長谷川三枝子氏(患者の声を医療政策に反映させるあり方協議会会長)
渡邊清高氏(国立がんセンター)
小西洋之氏(総務省)
【問題】
ここで、読者の皆さんに1つ質問したい。「医療」と「日経BP」という2つのキーワードから、あなたは誰を思い浮かべますか? 答えは次のページ。