「医療は医師や患者の勝手になるものではない」 ─ 医療基本法シンポ
日本医療政策機構の理事を務める埴岡健一氏らが推進する「医療基本法」について、読売新聞医療情報部長の田中秀一氏は、「医療は医師や患者の勝手になるものではなくて、公共財という視点で考える必要がある」などと力説している。「医療基本法」は、医師や患者に義務を課す強権的な法律なのだろうか。(新井裕充)
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日本医療政策機構の代表理事を務める黒川清氏(政策研究大学院大学教授)や近藤正晃ジェームス氏らでつくる「東京大学医療政策人材養成講座」の医療基本法プロジェクトチームは10月18日、医師の計画配置や医療安全調査委員会の設置などを盛り込んだ「医療基本法」の成立を目指すシンポジウムを開催した。
パネリストとして参加した読売新聞の田中氏は、医療をめぐる重要課題として「医師不足の解消」を挙げ、次のように述べた。
「医師不足対策として、(舛添要一前厚労相が設置した)厚生労働省の検討会や民主党は、『医学部の定員を1.5倍に増やす』ということを言っています。しかし、これは果たして実現できるのかという問題があります。というのは、医師の養成には10年ほどかかりますし、医師の数全体を増やしただけでは、現在、非常に勤務が過酷と言われている産科や小児科、救急、外科などの診療科が敬遠されて、そういうふうな医師不足が解消されないのではないか。解決するためにはまず、その医師全体を増やすだけではなくて、診療科ごと、あるいは地域ごとの医師の偏在や不均衡を直していく必要があると考えます。そのために、研修先や診療先を現在のような自由選択に任せるのではなくて、計画的に配置すべき」
田中氏はこのように、「医療基本法」が目指す計画配置の考え方を説明。後期研修医を対象として、診療科や地域ごとに医師の定員を設け、第三者機関を通じて計画的に配置するという。医師の計画配置に反対する意見に対しては、次のように反論した。
「既に欧米では医師の計画配置というのが実施されています。どのようにしているかと言いますと、例えばフランスではですね、国が地域や診療科ごとに必要な医師数を調査して、病院ごとに受け入れる研修医の数を決定しています。医学生は競争試験を受けて、成績上位の学生から順番に、希望する診療科や地域で研修を受けるというシステムです。ドイツでは、州の医療圏ごとにですね、人口当たりの医師の定数を設けて、定数の110%を超える地域では保険医として開業することができない」
つまり、計画配置はフランスやドイツで導入されているので日本でも導入すべきと主張。また、診療科の偏在を招いている原因として、「自由標榜制」を挙げた上で、次のように訴えた。
「医師の免許さえ持っていれば、どこで何科の医者をやってもいいということですが、これを前提にしている限り、医師の適正配置は実現できないので見直す必要があるだろう。その根本的な考え方としては、医療というのは、医師や患者の勝手になるものではなくて、公共財という視点で考える必要がある」
田中氏は、医師の自由を制限するだけではなく患者の権利も制限する必要性を強調。「軽症の場合には、保険で診ることはやめてはどうかということを私は検討いたしました。普通の自動車保険などでは免責というシステムがある」などと述べた。詳しくは、次ページ以下を参照。
【目次】
P2 → 救急の"たらい回し"などが不況の原因
P3 → 研修先や診療先を自由選択に任せずに計画配置
P4 → 医療は医師や患者の勝手になるものではない