患者の「知る権利」と「知りたくない権利」 ─ 明細書で激論
■ 「いろいろな観点が混ざって議論の収拾が付かない」 ─ 小林(麻)委員
[勝村久司委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)]
ちょっと......、(明細書発行の)イメージなんですけど、僕はまあ......、(明細書を無料で発行する病院として)6~7年前に広くテレビや新聞で報道された「トヨタ記念病院」(愛知県豊田市)というのが初めてこれをやった。
それを国立の(ナショナル)センターが同じようにやった。それはどういうやり方かというと、「原則、発行します」。「いらない」という人には無理矢理渡さない。
▼ トヨタ記念病院は「すべての患者」に発行している病院ではない。あくまでも、明細書の発行を希望した患者に対してのみ発行しているので、「すべての患者」とは言えない。同院のホームページ「診療費のお支払い方法」では、「自動精算機 ご利用方法」として、「診療明細書が必要な方は、画面上『診療明細発行』を押してください」と書かれている。会議終了後、診療側の委員が「トヨタ記念病院には必要か不要かを確認する発行ボタンがある」と保険局医療課の佐藤敏信課長に指摘。これを受け、佐藤課長は勝村委員に「トヨタ記念病院の例を出されるなんて」などと抗議した。診療側のある委員は「窓口で必要か不要かを尋ねるのはいいのではないか」と話しており、佐藤課長も「いるかいらないかを(窓口で)きくのはいいんですよね?」と勝村委員に確認していた。もし、希望する患者に発行することを求める主張であれば、それは「すべての患者への発行を求める主張」とは言えないだろう。
それ(明細書の無料発行)をやって......、まあ、嘉山さん、僕は薬害のこともいろいろ......、薬害も気になっていることは1つなんですが、僕は中医協の委員になったことを受けてですね、患者の皆さんに単価を知ってほしい。中医協が決めている単価を知ってほしい。それが一番。(中略)
▼ この点について診療側委員は反対していない。「明細書を発行する必要があるか」という論点、これは争いがない。明細書発行の必要性を肯定したとして次に、発行する対象者(すべての患者か)、発行費用(有料か無料か)などが問題になる。この日は、いろいろな論点がごちゃまぜになって議論されてしまった。
この後、国民を代表する立場の公益委員である小林麻理委員(早稲田大大学院公共経営研究科教授)が患者への情報提供の重要性を訴えたが、それは診療側も賛成している「入り口の議論」なので発言の趣旨が不明。「患者への懇切丁寧な説明を独立の点数として評価すべき」という意味はないだろう。
[小林麻理委員(早稲田大大学院公共経営研究科教授)]
いろいろな観点が混ざってしまってですね、議論の収拾が付かなくなっている......。私、基本的なことを申し上げるんですけれども、この議論の始めは、医療という分野においては患者と医療提供者側の間に、非常に情報の不均衡がある。非対称性があるということだと思うんですね。
ですから、患者は自分のことを知りたいけれども、リテラシーがないということもありますけれども、そのことを、情報提供していただきたい。情報という観点から言うと、(医療者と)全く同じレベルに達していないわけですね。医療提供者側は何でもご存じだ思うんですけれども、それについて患者は知りたい。
▼ その必要性には診療側も同意している。主要論点から若干ズレているからか、それとも疲れているのか、傍聴席はややしらけ気味の空気。総会開始から、もうすぐ6時間になる。
だから、同じレベルになってほしいということで、そのことがやはり必要なんじゃないかということだと思うんです。基本的な考え方としては、やはり情報を持っているほうがやはりそれを提供してあげて、同じレベルにしていただくということが基本的に必要ですし、そんなことが今、勝村委員がおっしゃったように、患者のリテラシーを高めていく。
リテラシーを高めるために、医療提供者側にいろいろな......、何て言うんでしょうかね、「ナビゲーター」と言いますか、そういうことをしていただかなくてはいけない、説明していただかなければいけないのですが、そこまでは今すぐに求めることはできないけれども、患者の要求と言いますか......。
患者自身が要求......、と言いますか、患者自身が「自分はよく知っているからこれはいらないよ」というその......、情報の非対称の世界にあってはですね、「自分が拒否できる」っていうレベルにあればもちろんいいんですが、拒否できるレベルにないものですから、そこを医療提供者側からやはり情報を頂くというのが基本的な考え方だと思います。(以下略)
▼ 小林委員の発言は以上。この後も議論は迷走し、継続審議となった。ところで、本件とは直接関係がないかもしれないが、患者本人の意思が確認できない場合は誰の意思を尊重すべきだろう。例えば、回復不能な植物状態の患者の延命を中止する際、妻は同意したが患者の両親は反対して争いになった場合、本人の意思を代替できるのは配偶者だろうか、親だろうか。
【目次】
P2 → 「正当理由ない限り、全患者に無料発行」を提案 ─ 厚労省
P3 → 「こういう方向でお願いしたい」 ─ 勝村委員(支払側)
P4 → 「個人情報が出てトラブルを生じることを危惧」 ─ 渡辺委員(診療側)
P5 → 「プライバシーが出るリスクが非常に高くなる」 ─ 嘉山委員(診療側)
P6 → 「めちゃくちゃな患者さんが一杯いる」 ─ 邉見委員(診療側)
P7 → 「保険者が全患者に渡すのが一番」 ─ 西澤委員(診療側)
P8 → 「医療内容や価格を教えてもらう権利がある」 ─ 白川委員(支払側)
P9 → 「無理矢理押し付けて渡さなければならないのか」 ─ 鈴木委員(診療側)
P10 → 「いろいろな観点が混ざって議論の収拾が付かない」 ─ 小林委員(公益側)