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がん研究費には仕分けが必要だ 土屋了介・癌研顧問


 これに対して、嘉山先生はどうするべきなのかということです。がんセンターに30年近くいた身として、少しアドバイス申し上げるならば、嘉山先生には、病院や研究所の改革は早く新しい人にお任せいただいて、日本全体のがん対策をどうするのか、金銭の絡む研究費の配分のリーダーとして早く活躍されることを祈ってます。

 ただし、理事長が運営委員会を主宰していくのでは、外部から見て、これまでと同じになってしまいます。むしろ、運営のトップを選ぶ委員会のトップである方が望ましいんじゃないかと思います。理事長が組織する委員会で、がん研究助成金や対がん、がん臨床の運営委員会の委員長をどなたにお任せするか選考して、委員には全国から教授クラスの人に来てもらったら、ガラス張りになって、うまくバランスが取れるんじゃないでしょうか。その各運営委員会ができたところで、全国から公募の形で研究テーマを集めるという形です。

 それからもう一つ、事務局を、がんセンターの内部の人間や役所の人間にやらせるのでなく、特に大学にいる若手の研究者自身にやらせるとよいと思います。例えば3年なら3年で、1年ごとに3分の1ずつ入れ替わるとか、継続性を保ちながら人が入れ替わる方法はいくらでもあると思います。色々な施設から来れば、お互いに牽制機能が働きますし、そこで事務を覚えて行ったら大変な武器になります。アメリカの研究者は、実は事務能力がものすごくあるんですよね。見ていると、若い時にNCIに行って、研究者としてだけじゃなくて、そういうことをやっている人もいる。全国的にカバン持ちで運営委員にくっついて歩くような人が育ってくると、やがて自分が運営委員になった時に、官僚を使えるようになります。今はそれができない人が多いものだから、みんな官僚が書いた筋書き通りの検討会をやったり、結論をそのままいただいて意見を差し挟めないようになってしまっています。

 もちろん研究費の配分にあたっては研究を評価する委員会だけでなく、運営を評価するような監査役や評価委員も必要です。がんセンターの理事会の役割でもありますし、それと別に外部の人間を入れた評価委員会というのも必要です。コンプライアンスの面からも会計管理の面からも、弁護士や公認会計士を入れて、専門的なものは専門的な立場で評価できる人を入れた形です。そうやって的確な運営を図っていくと、何十億円というお金の運営が効果的に果たされるんでないかと思われます。

 そういう仕組み全体の面倒をみることこそが、がんセンターの役割なんであって、がんセンターの職員が運営委員会の多数を占めるというのは、やっぱり間違っているわけです。各臓器で全国に80人の教授がいます。だったら臓器によっては、がんセンターの人間が入れない位でないとおかしいですよね。どこかの首相みたいに自分の所をぶっ壊して、がんセンターをぶっ壊したら、尊敬されるようになりますが、ぶっ壊し損なうと本体がなくなっちゃう危険もあります。だから早目に手を打って、がんセンターが毅然とした態度になれば、逆に改めて尊敬を集められるし、あとは若い人が頑張ればそれなりのものが与えられると思います。病院とか研究所とかは、それぞれ1病院、1研究所の扱いにしないといけません。

 嘉山先生も恐らくそんなことは百も承知なんだろうと思います。でも、忙しくてなかなか手を付けられないと思うので、手遅れにならないうちに、少し私が先に触れておきます。

 癌研に来てみると、そういったことが築地にいた時以上に高く望まれるところです。癌研にも、たくさん基礎にも臨床にも研究者がいて、とても頑張っているけれど、そういう人たちが築地の人に比べて恵まれてないなというのが正直なところです。

追記:
インタビューを受けてから約1月が立ち、状況の変化がありました。実は、6月8日(火)にがん対策推進室長が室長補佐を引き連れて癌研にやってきました。目的は「がん臨床研究事業」の「事前評価委員長」である土屋了介の解任通知でした。今年度からファンディング・エージェンシー機能が厚生労働省に戻ったので、「がん臨床研究事業」に関するすべての決定は健康局長が行うことになり、局長の意向を伝えにきたとのことでした。私が、平成22年度の「がん臨床研究事業」の運営に関する規程は作られたのか、あるいは、国立がんセンターが用いていた規程を継続して使うのかを問いただしたところ、平成22年度の規定はないとのことでした。規定もなく、専門家による「企画運営委員会」も開かれず、がんの臨床も研究の経験もない健康局長やがん対策推進室長の一存で何十億という研究費が運用されるのは納得できないと、健康局長に伝えるように言って、お引き取り願いました。その後、がん対策推進室長来訪の事実を麦谷がん対策担当審議官に電話でお伝えしたところ、「がん臨床研究事業」の「事前評価委員長」は引き続き土屋了介が担当するように指示されました。そこで、嘉山孝正国立がん研究センター理事長がこの問題を把握しておられるのか心配になり、電話したところ、全く相談がなかったことが判明いたしました。
 がん研究費の運営に関しては「仕分け」が必要です。
 なお、私は、長妻厚生労働大臣から省内仕分け人の任命を受けております。

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