本来の「根拠」と「総意」に基づくガイドラインとは?-森臨太郎氏インタビュー①
■国策だから納税者の視点が入る
熊田
「そこまでやっているんですね。ガイドラインは国策で、経済活動の中に医療が入っていて、どれぐらいお金かけるか、と考えられている。日本はその辺り全くなくて、『良いことだからやろう』という感じがします。どれぐらいそこに投資する価値があるかを相対的に考えないですね」
森
「国策なので納税者の視点があるわけです。英国の医療は税金で賄われていて、アメリカのように保険制度ではないので、税金を出す側の意識が重要です。国民の貴重なお金をどこに投資するのかという点です」
熊田
「確かに、もっともな納税者の視点ですね」
森
「その費用対効果分析されて集まったものもエビデンスの一つなので、集まった段階で会議をします。推奨が総意形成の中で煮詰められていって最終的に『根拠と総意に基づく推奨』となったら、ガイドラインを一般に公開して意見の公募(Public Consultation)、日本で言うパブコメを募集します。大量にコメントがきますから、それに対して一つ一つ答えます。私の時にも何千のコメントが来ましたがそれぞれ一つ一つに答えます。いい意見だから採用しようとかいうこともよくあります。こういった場合、再度会議をしてから草案ができます。そして現場に導入する際に役立つツールも開発します。こういったプロセスとなります。一般的には1~2年ぐらいだと思いますが、出産のガイドラインは3年かかりました」
熊田
「ガイドラインを作成するということ自体に、現場への導入のことまで含めて考えられているわけですね。導入のツールまでガイドライン作成チームが作るんですか」
森
「導入ツールを作成する専門のNICEの技術的チームがあり、いろんなチームが作成者側と一緒にやります。全部私達がやるわけではないです」
熊田
「そのガイドライン作成チームは、どんな構成ですか?」
■患者参加が法定
森
「メンバーは各ガイドラインで違いますが、原則として患者さんや一般の方の代表が入ることが、ブレア政権下で定められた法律で定められています。各分野の人が入りますが、NICEなど組織側に所属している人間が3分の1。そのテーマの専門家が3分の1。そして患者や一般の方の代表です。出産のガイドラインでは、どういう人が集まれば、妊娠している女性にとって最も適切に価値観を反映できるのかなと考えました。それで産婦人科の医師を大中小規模の施設からそれぞれ3名。助産師もハイリスク施設から中規模施設、開業助産所からの代表で3名。そして麻酔科医、小児科医一名ずつ。患者一般代表としては、自然分娩を推奨するグル―プ、また出産がトラウマとして残っている方たちで、産科麻酔を使ってほしいという方のグループなどに入って頂く構成になりました。メンバーは多ければいいというものではないです。100人いると話し合いはできるけど、決まらない。少な過ぎると決められるけど、様々な分野から人を集められない。集団力学でも10~15人ぐらいが適切だと言われています。私達のガイドラインでは12人ぐらいにして、メンバーは公募で集まりました」
熊田
「患者側が入る事が法律で決まっているんですね。日本は大体医療者だけですね......」