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ニュース〜医療の今がわかる

本来の「根拠」と「総意」に基づくガイドラインとは?-森臨太郎氏インタビュー①

  
■価値観で根拠の捉え方が違うから、総意形成をする

「あまり日本について悪く言いたくはないのですが、日本のガイドラインは、先程お話したような作成過程それぞれの段階で非常に弱く、多くの問題点があります。我が国には、厚労省の肝いりで開始した23の主に成人の医療に関するガイドライン事業があり、どれもそこそこの予算が組まれ、作成支援も受けて作られ、『根拠に基づく』ことをうたっています。ですが、途上国を含めた多くの国で行われている『根拠に基づく』こと、つまり科学的論文を網羅的に検索して、しっかりと吟味した上で、必要に応じて高度な統計手法を用いて結果を統合する系統的レビューの手法は用いられておらず、『なんとなく』で行われているのが現状です。今もこの現実は変わりません。ガイドラインについては、完全なガラパゴス化していると言わざるを得ない状況です」
 
熊田 
「『根拠に基づく』とは言われているものの、実態は『なんちゃって』なわけですね」
 

「中国には10年以上も前に先程お話したコクラン共同計画のコクランセンターができ、お隣の韓国にもコクラン支部が存在しているのにもかかわらず、我が国にはいずれも存在せず、我が国からコクランレビューに貢献している著者数は英国の1%の約50名でしかないことを考えても明らかです。コクランレビューは系統的レビューの代名詞的存在です。患者さんへの直接情報提供をうたい、平易語訳をすべてのレビューにつけているコクランレビューの存在を知っている患者さんは日本では一体どれくらいおられるかなと思います」
 
熊田
「私も知らなかったです」
 

「日本はこの状態なので、『システマテックレビューを基に作りました』と言ってもそうできるような状況にはありません。そんなしっかりした方法論で作られているわけがないので、そこがまず弱く整備されていません。残念ながら日本でこういった分析をできる人はそう多くいません。今までの診療ガイドラインで費用対効果分析がされた研究はないと思います」
 
熊田 
「確かにそんなことは聞いたこともないですね」
  

「そして総意形成についてです。費用対効果のシミュレーションをするにしても人間の思いや価値観はシミュレーションできるものではありません。私は出産のガイドラインに携わった時に新しく実践した事があるのですが、それが総意形成の部分です。それまでは根拠に基づくガイドライン策定の方法は『根拠に基づく』事が強調されてきましたが、『根拠に基づく』だけでなく、皆さんに受け入れられないと話にならないですよね。その根拠をどう認識するか、捉えるかは、人々の価値観の問題です。それがガイドラインのプロセスに欠けていると思ったので、私の関わったガイドラインでは主導していきました。声の大きい人の意見ではなく、客観的な意見が通るように工夫しました」
 
熊田
「社会がその治療法や診断なりについてどう判断するか、どう思うか、という事が大事なわけですよね。それが総意形成の方法に反映されてくると。ただ、具体的にするには難しいところだと思います。どんなふうにするのですか?」
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