医療政策に総意形成プロセスを-森臨太郎氏インタビュー②
■医療者と患者が認識の違いを理解
森
「もう一つは、ガイドラインのプロセスをどれだけちゃんとやっても、学界の権威主義になってしまっては意味がありません。エビデンスの世界でつきつめていっても権威主義や利益相反は乗り越え難いことがありますが、そこはちゃんと乗り越えたいと思いました。そのためには若い人たちを入れる事かなと。特にガイドラインはこう作成していくという考え方や、こういう考えに基づいてやっているのだという教育の現場にもしたかったのです。若い先生たちに実際に作成するプロセスの中で勉強してもらうという事が、私達が工夫したところでした」
熊田
「なるほど、若手の教育の場にもなったということだったんですね。その総意形成、先程デルファイ法のお話もありましたが、今回のガイドラインのどこに必要だったんですか? エビデンスの弱い部分ですか?」
森
「今回はすべての項目で総意形成法を使用しています。どれだけエビデンスが強くても、『実際の現場の視点で考えるとこう』というのはあって、完璧じゃないんです。効果はあっても、副反応はどんな薬にもあります。それをどう捉えるかは、両方含めて考えないといけません。この両方含めて考えることは人でしかできないことです。エビデンスがないところだけに総意形成するのでなく、全ての項目が総意形成で叩かれています」
熊田
「そうだったのですね。でも、このガイドラインの内容は専門的で難しすぎて、ご家族の方では判断が難しいところもありませんか? 実際、私にも意味が分からない項目が多いです」
森
「そこが難しいところで、NICEでも『一般患者さんに科学的根拠や推奨などの内容が分かりにくいじゃないか?』と話題になります。そこで、今回はカンファレンスに入る前に、一般患者さんには別の時間を取って説明をしました。ただ、会議の中で医療者同士のの話し合いに対して、患者さんから『それはどういう意味なのか』と、投げてもらうのも一つのプロセスなわけです。『患者さんはそこが分からないんだ』という事が、医療者たちも議論が白熱すると忘れがちです。会議の中で患者さんにとって何が分かって何が分からないという事を医療者が理解するという事も大事です」
熊田
「患者さんにとっては、実はこんなにも根拠があいまいだったり、医療が完全じゃない、ということが見えるということですね」
森
「どんな診療行為でも、医療者同士だと技術的な話になって、専門家の自己満足の話になってきます。そこで患者さんに質問されると、『患者さんにできるだけ健康になってもらうことが目的なんだ』と改めて気付いて考え方が変わり、話を原点に戻すことができます。そういう視点を投げてもらう事も大事だと思います」