「標準医療の底上げで、救える命を救う」森臨太郎氏インタビュー③
■「新しいものは要らない」
森
「地球規模の考えではほぼ常識化しつつあることですが、国連の『ミレニアム開発目標』があります。乳幼児死亡率の削減や、妊産婦の健康の改善などが目標になっていて、それを達成するためにどうするかを考えるのが私の本業ですが、そこでは『新しいものは要らない』という考え方です。効果がはっきり分かっている診療行為や公衆衛生行為がありますが、そこにアクセスできる人はすごく少ないから、ちゃんと広げようということです。新しいものではなく、すでにあって、よく分かっていて利く良いものを広げていく。それにお金をかけようという話をしています」
熊田
「医療提供体制を全世界でボトムアップしていくのですね。新しいものにつぎ込むのではなく、すでにある良いものに手が届いていない人たちをバックアップする」
森
「日本では医学がどんどん進んでいます。良い事かもしれませんが、よくよく考えると高齢者も子供も地域や受ける病院によって、ずいぶん受ける診療行為が違っています。分かっている標準的な診療を70%でも皆に届くようになっただけで、日本の国民の健康度はもっと上がります。そっちのほうがよっぽど大事です。新しいものを100%求めようとして新しい技術や臓器移植などを求めるのもいいけども、そうではなく『ボトムアップの方向にお金をかけましょう』というのがあるべき姿ではないでしょうか」
熊田
「今ある命を守るということではそうだと思います」
森
「今は地球規模の健康政策として、英国や米国でも、医療の不平等やアクセスというものを充実しようと考えられています。医療を受けられないというバリアなくし、貧困層がアクセスできるようにしようと。『社会的弱者の人もこうやったら健康度が上がります』という話になりつつあります」
熊田
「世界的にはそういう潮流にあるわけですね。日本は迷走しているような気がします......」