村重直子の眼13 大西睦子・ハーバード大学歯科医学校研究員(中)
大西
「PIの給料は自分のグラントの中からやり繰りして出さないといけないから、日本とグラントのシステムは全く違うって思いましたね。あとラボの実験台や机なども、ハーバードにお金を払って借りているみたいです。ハーバード大学のあらゆるシステムはとても充実していますが、その維持や向上ためには多額の資金が必要と思います。したがって、常に優秀な人材とお金が必要なのだと思います」
村重
「むしろ、納める実力がないと大学にはいられないということですね」
大西
「アメリカのラボの経営は随分日本と違って、本当に驚きました。教授になっても、グラントがとれなければラボは閉鎖しなければなりません。教授は職と地位を失います。たとえグラントがとれても、額が減れば、人件費を減らさなければなりません、すなわち研究者たちは自分で新しいラボを探さなければならないのです。なので、PIはいつもグラントのことを考えています。研究者は、いつ自分が職を失うかわかりませんから、転職を考えざるえません。ハーバードでは、いつも、よりよい転職の仕方というセミナーを開いています。これにはびっくりしました。日本は会社内で、部下たちによい転職法の勧めなんていうセミナーはありませんよね。教授になるシステムも、日本とアメリカでは全く違います。日本では、教授を決めるために選挙がありますよね。アメリカでは、グラントがあれば研究員からPIになれます。例えば、新しいPIは、最初の5年のスタートアップというグラントをNIHからもらいます。その5年間に業績が出れば、次のグラントを申請して受理されます。でも業績がでなければ、また研究員に戻ることになります」
村重
「いやあ厳しいですね。色々な意味で」
大西
「今は特にグラントの申請が厳しいみたいで、やっぱりお金がなくなると心も狭くなってくるというか。研究者どうしのけんかもあります。殴り合いではありませんが、人間の憎しみや嫉妬という感情は、大変恐ろしいものと思いました」
村重
「そうなんですよね。みんな余裕がなくなると、すごいキリキリ、ギスギスしてきて」
大西
「その辺の人を引きずり落としたくなってくるみたいで」
村重
「ニューヨークの臨床もそうでした」
大西
「やっぱり」