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ニュース〜医療の今がわかる

村重直子の眼13 大西睦子・ハーバード大学歯科医学校研究員(中)


村重
「あまり入れ替わりが激しいと、お互いにどこの馬の骨か分からないみたいな、普通私たちが日本で暮らしていて当たり前だと思っているベースラインの信頼みたいなものさえ、お互いに持てなくて、余計にギスギスしてきますよね」

大西
「だからアメリカの医療の評価はとても難しいと思います。差が激しすぎます」

村重
「診断も雑なところがあって、例えばサンプルのクオリティによって診断の精度にも影響するじゃないですか。血液内科で、日本では胸の真ん中にある胸骨から骨髄採取しますけど、アメリカでは普通、腰の腸骨からしか取らなかったんですよ。胸骨から取ると貫通しちゃうことが、すごく稀にあって、訴訟リスクが高いアメリカではやらないんですけど、診断の精度はたぶん胸骨の方がいいんですよね。腸骨より胸骨の方が造血機能が多く残っているので。でも、一人ひとりの診断や治療をしっかりすることよりも、全体の訴訟リスクが高くなると、余りにも稀なことなのに、そのリスク回避の方が優先される。じゃあどっちがよいか分からなくて、日本でも胸骨を貫通しちゃう事故は起きているけれど、みな知らないでいるだけで、どっちがよいのか本当に分からないですよね」

大西
「私の前のダンスのパートナーだった人、神経内科のお医者さんなのですが、彼が話していたのは、ランキングに出るようなドクターというのは、リスクの多い手術をしないから有名になるけど、僕たちは違うって。ランキングを上げるには失敗が許されないから、末期の患者さんとかは診ないみたいです。もちろん素晴らしいドクターがたくさんいらっしゃると思いますが、情報の解釈って難しいなって思いました」

村重
「最後まで診ないですよね。患者さんも入院期間が短くて入れ替わりが激しいですし、そういう転院や次の施設を探すなどの調整がどうしても必要になります。それにアメリカの医者は、訴訟リスクがあるので自分の専門領域以外の患者さんは診ません。色々な意味で、ひとつの病院の中でできるものとできないものがあるんですけど、その調整をどのレベルまで医療側が背負うのか、患者さんに背負わせるのかっていうことの程度の違いなんだろうと思っています。日本はもう完全に医療者側が背負うのが当たり前みたいな感じですが、患者さんはたぶん気づいておられないですよね、これが当たり前だと思ってて。でもイザ直面してみると本当に大変な思いをされている人もたくさんいらっしゃると思うんですけど、それでも、そうなってしまう確率とか度合いとかはアメリカの比じゃないですよね。アメリカの患者さんは本当に放り出されて、なかなか治療も受けられないし」

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