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ニュース〜医療の今がわかる

「患者がつながれば、医療者も救われる」 豊岡通信vol.1

 ロハス・メディカル関西版「それゆけ!メディカル」の創刊に向け、実家のある兵庫県北部の豊岡市に引っ越してまいりました。豊岡市は人口約9万人、高齢化率27%(2011年2月現在)という少子高齢化の進む農村地域ではありますが、患者のための医療を目指して国内からも注目を集める活動を行っていることを知り、私自身も驚いています。豊岡の医療について、随時お届けしていきたいと思います。(熊田梨恵)

交流会.JPG 公立豊岡病院日高医療センターの豊岡アイセンター(倉員敏明センター長、23床)で3月21日、視覚障害のある患者同士の交流や情報交換のための院内サロン「すまいる会」が開かれ、地域の患者や家族、医療関係者ら約70人が参加した。視覚障害者のための院内サロン活動は国内でもめずらしく、よりよく見えるように支援するロービジョンケアや福祉制度についても学んだ。会の運営を担った一人の矢坂幸枝医師は「今までは患者さんに何もできなかった時に罪悪感がありましたけど、患者さんにロービジョンケアを紹介することで安心してもらえるので、私たちも自信を持って患者さんと話せます。この会やロービジョンケアがあると医療者も安心して患者に接することができるので、医療者も救われるのです」と話した。

交流2.JPG  ロービジョンケアは、視力低下や視野狭窄などによって見えにくくなっている患者に、現在の視機能を生かしながらよりよく見えるように支援する眼科医療機関でのリハビリテーション。日本眼科学会によると国内の視覚障害者は約164万人。ロービジョンケアの普及が課題になる一方で、患者の病気や状態によって見え方の個人差が大きく具体的な取り組み方法が分からないと言われたり、診療報酬での評価がなかったりすることなどから実施している医療機関は少ないのが現状だ。
 
 豊岡アイセンターは地域眼科医療の要を担い、外来患者は毎日150人程度。地元からだけでなく、京都府北部や兵庫県南部からの患者も多い。国内でもめずらしくロービジョンケア外来を設けており、医師と視能訓練士が毎週木曜日の午後に行っている。患者の状態に応じた拡大鏡など福祉機器の提案や、障害者手帳や障害者手当の手続きの紹介などがされている。視能訓練士の平松英子さんは日ごろ働きながら、見えにくくなった患者は家から出づらかったり、他人との交流が少なく孤立しがちになっていると感じていたという。学会などで情報や人脈を得て、院内サロンの開催を思い立った。「患者さんたちは病院に来ても一人で待って座っていたり、家から出られなかったり、一人で悩んでいます。いろんな人とつながっていることが大事で、つながりがあればもっと安心してもらえると思いました」。近所の繋がりが密な地域であるだけに、病気や障害を持ってしまうと逆に恥ずかしくて引きこもってしまったり、病気のことを話せなかったりする雰囲気もあるようだ。
 
 
■「こういうところに来るのが大好き」
 今年で2回目を迎える「すまいる会」。午後1時ごろ、普段外来の待合室として使われているスペースに地元の患者や家族が集まってきた。ほとんどが外来で案内を聞いた高齢者だったが、中には市の広報誌を見て参加した患者もいる。加齢黄斑変性症の60代の男性は「すまいる会」の開催を知り、自分の病気やロービジョンケアについてインターネットで調べてから参加したという。病気の情報が印刷された用紙を持ちながら、「インターネットを調べると分かることもあるのですが、実際に話を聞いてみないとよく分からないので」と話す。
 
 まず「見えにくい方への福祉サービスについて」と題して、京都府視覚障害者協会の高間恵子相談員から各種の福祉施策に関する講演があった。
 その後、来場者を7つのグループに分けて日ごろの悩みや思っていることに関するグループディスカッションが行われた。リーダーは「すまいる会」の応援に駆け付けた視覚障害者支援を行うNPO団体のスタッフなどが務め、最初は照れや戸惑いの表情を見せていた患者や家族達も徐々に打ち解けて話し始めた。「見えないので家から出るのが怖くて引きこもってしまう」「近所の人がいても誰か分からなくて挨拶ができない。愛想の悪い人と思われないか心配」「夫が家から出ようとしないのでこのままだと認知症にならないかと心配。なんとかデイサービスに引っ張り出して運動やマージャンをして楽しんでもらっている」「見えない自分が認知症の母を介護していてこの先が不安」など、様々な意見が出た。視覚による不便さより、共に暮らす家族の将来や生活を心配する声が多く、生活者としての声がリアルに語られた。他には制度の使いにくさや地域差、情報の偏りなども挙がった。地域の介護保険施設や制度の手続き、日ごろ使っている拡大読書器についてのも情報交換も。
 
 豊岡市内から夫婦で参加した80代の夫は「いろんな話が本当に参考になりました」と話し、妻は「本当に楽しかったです。家にいたら二人だけの生活で何の情報も入ってこないし、引きこもってばかり。ここに来たら知らなかったいろんな便利な話が聞けるし、他のご家族のことも聞けて本当に嬉しいです。私はこういうところに来るのが大好き。これからもっとたくさんやってほしいし、こういうグループをいっぱい作ってほしいです」と笑顔で語った。
  
 このほか、携帯型の拡大読書器や音声機器、ルーペなど様々な福祉機器の展示も行われた。視覚障害者向けの福祉機器を扱う株式会社タイムズコーポレーションの山口成志代表取締役社長は「こういう機器はなかなか患者さんたちは知る機会は少ないです。普段は病院で患者さんに紹介してもらえるようにお願いしていますが、患者さんも病院で紹介されてもなかなか『買ってみようか』という気にならないというところが実際だと思います。やっぱりこういう患者さん同士の交流があって、そこでいろんな話を聞いて、初めて使ってみようかと思えるんじゃないかと思います」と、患者同士の交流の場がQOLの向上にもつながると話した。
 

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