「患者がつながれば、医療者も救われる」 豊岡通信vol.1
■「こんな病院他にない」医師、視能訓練士、事務スタッフ、NPOが協力
「すまいる会」の特徴に、院内医療従事者、京阪神地区の医療機関や民間視覚障害者サポート団体など、様々な立場が関わっていることがある。開催当初から協力しているNPO法人神戸アイライト協会のアドバイザーの堀康次郎さんは「こんな病院は他にないですよ。事実上、(見えにくい人のための)院内サロンがあるのは国内に3つだけ。他は医師だけ、視能訓練士だけでがんばっていたりするのですが、ここは医師も視能訓練士も事務スタッフもみんなが協力していて本当にめずらしいのです。患者さんへの情報は(病院の)外に団体が色々あるのですが、やっぱり患者さんは自分が通っている病院に医師も視能訓練士もいるから、そこでサロンがあると見えにくくても安心して行けるので、一番足が向きやすいです。ここは本当に画期的な催しをやっているので、これからもぜひ続けて頂いて、全国に広がっていったらと思います」と話した。堀さんは視覚障害者のための情報サポートを行っているが、医療者側から院内サロンをやりたいと持ちかけられたのは今回が初めてで、平松さんからの声かけに「ぜひ」と応じたという。「すまいる会」の運営ノウハウや講師派遣は堀さんらのアドバイスによるものだ。
豊岡アイセンターでは年末から準備を始め、医師や視能訓練士、看護師、事務スタッフなど約10人で準備を開始。NPOや国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局神戸視力障害センターなどとも連携して内容を考えた。運営費用はすべて医局からの研究雑費や助成金で賄い、スタッフの送迎は視覚障害者向けラジオ放送を提供するJBS日本福祉放送がマイクロバスを提供。診療以外で患者が院内に集まることに関する責任問題などについて病院運営側と意見が相違する場面もあったが、最終的には理解を得て開催に至ったという。
開催当日は、医師が朝からスタッフのためのおにぎりを握り、マイク係や机運びを行うといった様子。倉員センター長は患者が座っていた長椅子を片付けながら話す。「彼女たち(視能訓練士)が自発的にこの院内サロンをやりたいと言ってくれたんです。本当にありがたい。手術をしても失明する人もおられます。そこで僕ら医師は目をつぶらざるを得ない気持ちがありました。でも専門知識を持つ人たちが集まってこういうサロンができ、ケアができていくと僕らも心おきなく医療ができます。医師は知らないことばかりで、患者さんから教えてもらうことが多いです。注射を受けた事はあっても、目が見えなくなったことはないわけですから、だから患者さんの話を聞くと『そうなんだ』と思えます。そういうことを聞ける場は有り難いです。一つの病気は、医療だけでは成り立ちません。患者さんと家族、医療スタッフがいて初めて支えられます。医療はその一面でしかなく、何でも医療ができるというは間違いです。よく医師を中心とした"ピラミッド"と言われますが、そうじゃなくて対等なんです。医師は知らないことだらけだから、彼女たちのおかげで患者さんを支えることができる。だからスタッフが育てば医師も助かります。いろんな専門知識を持つスタッフが集まって、知識を集結してやっていく、そういうコミュニティがここでできていけば、と思っています」。
また倉員センター長は、日ごろからこうして医療者と患者が近づき、医療側から患者に情報や医療の状況を開示していく必要性も強調する。「今の医療の状態について知ってもらうと、患者さんたちも病院のかかり方などを考えてくれます。自分たちが正直になった方が、患者さんたちにいい医療ができますし、医療者も結局助けられます。そういうことがこの規模の地域ならやっていけると思います」。医療者と患者が近づくコミュニティの形成が、地域医療全体のボトムアップにつながり、"医療崩壊"の打開にもつながるという。
平松さんは終了後、「医師会や市の福祉行政、商工会議所との連携など、たくさんの課題は残りました。でも患者さんたちがにっこり笑ってお話しされていて、その笑顔を見ることができましたので、『よし』とします。皆さんがここに来て同じ病気を持っているから話す事ができたり、悩みを言う事ができたり、そういう場にしていきたいと思います」と語った。
患者に笑顔になってもらいたいという平松さんらの願いの込められた「すまいる会」。次回は9月に開催の予定だ。
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