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「自然に『死』と向き合える社会に」―認知症患者の介護家族の声⑤

インタビュー NPO法人「つどい場さくらちゃん」理事長・丸尾多重子さん
 
丸尾多重子さん.JPG 介護者同士の交流の場を開く「つどい場さくらちゃん」の丸尾さん自身、約10年の間に両親と兄をみとった経験があります。「介護者が笑顔になることで本人も元気になる」と介護家族の支援を続ける丸尾さんに、「なぜ今の社会で介護するとこんなに大変になってしまったのだろう」と聞いてみました。(熊田梨恵)

■家族には元々力がある

――4人のインタビューを聞いていると、介護をする家族は変わっていく力があるのだなと感じさせられます。

家族には元々十分な力があるんです。以前は、自分の家族が認知症や脳梗塞になったら腹をくくって介護に臨めました。病院からは「あなたたちでリハビリをしなければいけないよ」と言われて、家族もその覚悟ができます。それに病院から直接在宅に戻るのではなくて、一度介護老人保健施設に入ったりすると、家族はその間に気持ちも含めて様々な準備ができます。以前はそうやって時間をかけながら、地域全体で家族を育てていたんです。介護保険制度ができたことはいいことですし、良い側面もあります。ただ、それによって変わってしまったこともあります。今の老健は特養の入所待ちの人でいっぱいになってしまっていますし、最初から「待機」として使われているところもあります。それまで地域にあった色々な人間関係を断ち切ってしまったというところもありますね。例えば保健師さん。以前はとても優秀で人間性のある保健師さんがいましたが、介護保険では保健師が直接果たさなければいけない役割はなくなってしまったので、とても関係が薄くなりました。

――それまでインフォーマルにできていた地域のゆるやかなつながりが、介護保険が入ってきたことで切られてしまったところはありますよね。地域の人たちと話しながらゆっくり介護の準備をするというよりも、申請、認定、ケアマネが来て......と形ばかりせかせかしているところがあると思います。

今は介護者もゆとりがなくなってきているところもあると思います。介護が必要になった親を、子どもたちが慌てて介護施設に入れているようなところもあります。以前はもっと世の中がゆったりと高齢者を見ていたと思うし、家族ももっと温かく見守って、本人のペースに合わせた介護ができていたと思います。

――「つどい場」は、みなさん日常の介護から少し抜け出て、話したり泣いたり笑ったりすることで、客観的に考える時間ができるんですね。

ここに集まってくれる人同士の力で、みなさん元気になっていかれます。「つどい場」があれば、人と人がいて、繋がりができます。実際の介護保険では連携と言ってもなかなかできない。ここでは介護という共通項があるんです。みんな何も語らなくてもお互いのつらさが分かります。話をして抱えている問題そのものが解決するというわけではなくて、話すことで問題が整理でき、自分で道を見つけていけるんです。そういう場がなければ、話自体をすることがない。自問自答は絶対にいい解決にはつながらないんです。その人を大事に思っているから、家族は真剣に向き合い、変化して成長します。そして自信を持って育っていく。それに家族の力が育つと、結局は本人のためになるんです。本人が一番介護者の状態に敏感なので、家族が笑顔になると、本人の状態が良くなります。

――介護者が人や場面と出会って、時間をかけて力を養っていく場が必要ですね。

一見介護のことだけかと思うけど、みなさんが一人の人として感情を出し、自分を育てていく場なんです。介護は特別なものではなくて、人生の一つのスパンです。家族の命がかかっているからこそ、しんどいけど、人生の楽しさが出てきます。ここで介護者たちに出会っていると、「どう見ても大変そうなのに、こんなにニコニコできるのはなんで?」とみんな近づいてくるんですよ。だから本当に介護は奥が深い。

――今は介護する側もされる側も、どうしていいのか分からなくて孤独な現状があると思います。

例えば施設の中で孤独を感じておられる方も多いと思います。施設は人が多いから、孤独のはずはないのですが、心から心配してくれる人がいないでしょう。本人や家族が何か希望を言うと、「わがまま」と捉えられやすい。集団の中にいても孤独と感じるのは、本当に孤独なことだと思います。

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