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患者自ら立つ3

関節リウマチ 田中ツネ子さん(72歳)
*このコーナーでは、日本慢性疾患セルフマネジメント協会が行っているワークショップ(WS)を受講した患者さんたちの体験談をご紹介しています。同協会の連絡先は、03-5449-2317
tanakatune.JPG  田中ツネ子さんは元小学校教諭。病気のために大好きな仕事を辞めざるを得なくなり、以来5年前までの25年間、家で寝たり起きたりという生活を続けてきました。でも今は街を歩き回っています。

 息子2人の子育てをしながらの教員生活が20年に近づいた41歳のある日、田中さんは、手の小指の痺れたような痛みに気づきました。直前に受けた人間ドックで「悪いところは何もない」と太鼓判を押されたばかりでした。日を追うごとに痛みは段々大きくなり、全身へと広がって、でも受診しても原因が分かりません。やがて給食のしゃもじを持てない、字をキレイに書けない、子供と触れ合えば激痛が走るで、退職せざるを得なくなります。
 「毎年毎年違った子供たちが入ってきて、絶対にこうすればうまくいくというのがないんです。次から次に課題が出てきて、その新鮮さ奥深さに飽くことがなかったんです。これからいい先生になれるだろうと思っていたのに」
 素人なりに調べ、関節リウマチでないか、と市民病院のリウマチ科を受診しましたが、医師から『絶対にリウマチではない」と言われ、そのまま3年。頼み込んで、「そこまで言うなら」と抗リウマチ薬を筋肉注射してもらったところ劇的に楽になって、ようやく診断が確定したのでした。
 落ち着いたのも束の間、今は月に30mlまでしか注射しない薬を、200mlも打ったため、2ヵ月目には副作用で全身の粘膜がただれてしまいました。半年間薬を休んで、以後30年15mlずつ打ち続けています。途中で中断すると効きが悪くなるそうで、最初から適量だったらもっと上手にコントロールできたかもしれないとは思いつつも、当時は情報が少なかったから仕方ないと自分に言い聞かせています。
 人から頼りにされることはあっても、人に頼るのは大嫌いという田中さん。必死の思いで主婦の仕事をこなしながら、通院や最低限の買い物以外、家に引きこもるようになりました。途中、母親が91歳で亡くなりました。その時でさえ、誰に頼ることもなく最期まで看取りました。
 転機が訪れたのは5年前です。変形した足首の手術で入院した時、たまたま「リウマチ友の会」の会員と知り合いになり、誘われて入会し活動を手伝うようになりました。久しぶりに外で活動してみると、人生が随分と有意義に感じられました。そして、会を通じて、セルフマネジメントプログラムのワークショップに誘われます。
 正直、何のことだか分からなかったそうですが、家で寝てばかりいても仕方ないという意識が心の底にあったんだろうと言います。参加し、「病気を持ちながら健康な生活を送る」という発想と、残された身体機能を生かす、自分にできることを考える、難病でも人の役に立つことがあるといった個別の考え方に、目から鱗の落ちたような気持ちになりました。
 そして、体を労わろうと動かさないことで逆に体の状態を悪くしていたことに気づきました。また、病気を抱えるという共通項以外まったく接点のない、いろいろな立場・世代の人と友達づきあいするようになり、その人たちと話しているうちに、人に何かを頼んだとして、それが必ずしも相手の迷惑とはならず、かえって生きがいになることだってあるんだということにも気づきました。
 「病気にならなければ知り合うことのなかった優しい人々とたくさん知り合いました。病気をしたから優しくなれたのか、優しい人が病気になるのか分からないんですが、本当に優しい人たちばかりで」
 プログラムは、考え方を変えただけでなく、実際の生活の質も上げました。
 以前はエスカレーターに乗る時、どんなに努力しても5段か6段か見送ってからでないと足が出ませんでした。デパートなどへ出かけるにも、車をどこに止めて、どう歩いたら一番近道で、売り場はここだから、というように事前に綿密に計画を立てて脇目もふらず。そして帰ってきてから寝込みました。
 今はスっと足が出ます。デパートへ行っても、あちこち眺めながら歩いていて、気づけば1時間半ぐらい経っています。歩くのが楽しいそうです。
 プログラムに接してから、心がけて外へ出かけるようになり、また治療にも積極的になったことが効いているようです。新たな免疫抑制薬を試してみたいと主治医に相談し、一昨年の9月から処方してもらえるようになりました。この30年間で、今が一番調子がよいのだそうです。

ワンポイントアドバイス(近藤房恵・米サミュエルメリット大学准教授)  セルフマネジメントのワークショップでは、慢性疾患とうまくつきあっていく上で役立つ様々なスキルを学びます。「肯定的な思考」もそのひとつです。田中さんがワークショップに参加して「残された身体機能を生かす。自分にできることを考える」という考え方に目から鱗の落ちた気持ちがしたと言われている、まさにこのことです。病気をもっているとどうしても否定的に考えてしまう傾向が出てきますが、この「否定的な考え方」を「肯定的な考え方」に変える方法を学んでいきます。  25年間のつらい人生体験を「病気にならなければ知り合うことのなかった優しい人々と知り合いました」と話される田中さんに、強さと優しさを感じます。
 
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