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患者自ら立つ17

tatu17kai.JPG関節リウマチ、乳がん 甲斐由美子さん(55歳)

*このコーナーでは、日本慢性疾患セルフマネジメント協会が行っているワークショップ(WS)を受講した患者さんたちの体験談をご紹介しています。同協会の連絡先は、03-5449-2317

 神戸市の主婦・甲斐由美子さんはWSを経て、共に病と闘う同志を得ました。受講仲間であり、ご家族です。

 製菓業やジュースの小売業など手広く事業を興した祖父を持つ甲斐さんは、両親がその手伝いに忙しくしていたので、おとなしく手のかからない、おばあちゃん子として育ちました。
 そんなつもりではなかったのですが、短大の時に実習に行った公立幼稚園の魅力的な園長から熱心に誘われ、卒業後そこの教諭になりました。疲れきって遅く帰ってくる娘に、両親は良い顔をせず、口を開けば「早く辞めて結婚しろ」と言いました。4年経ち、そろそろ異動で園長とも別の職場になりそうだったので退職し、それから3年は、お茶、洋裁、エレクトーン、手芸、レザークラフト、書道、料理......。稽古事と旅行に明け暮れ、たまにアルバイト、まさに青春を謳歌しました。
 27歳の時にお茶の先生の紹介で、公務員の夫、和則さんと結婚。長女が中学生で登校拒否になったことが最大の試練だったというぐらい、順調で健康な日々が続きました。
 ところが50歳の誕生日を目前に控えた秋、なぜだか肩が痛い、首も痛い、しばらくじっとしていても治まらないという状態になりました。それが半年ぐらい続き、ある朝目覚めてふと気づくと、手の指が左右対称に腫れていました。
 和則さんがネットで調べ「リウマチと違うか?」と言いました。しかし、強い痛みがあるのに血液検査ではハッキリせず、10カ所くらいの整形外科、漢方医や内科医をグルグルと回りました。やっと診断がついた時には、次の年の秋になっていました。
 思い返せば、発症した頃は自宅で幼児教室を開いていて、保護者との間に少しトラブルがありました。また、母親が人工股関節の手術を受けたので、介護に役立つかなとヘルパー資格を取り、そのままヘルパーとしても働き始めていました。少し頑張りすぎたことが発症のきっかけになったのかもしれません。

2年後に今度は乳がん

 2年後の07年11月、今度は乳がんが見つかりました。その半年前の市民検診では「異常なし」でしたが、胸のしこりが大きくなっているような気がして、念のため受診したらドンピシャだったのです。ただし非常に初期での発見だったために部分切除だけで済み、追加のホルモン治療も放射線照射も要りませんでした。
 がんが見つかってしばらくは不思議なことにリウマチの痛みがなくなりました。医師は「神経が自己防衛したんだろう」と言いました。このまま治るのかと期待しましたが、そのうちまた常にどこかしら痛みがある状態に戻ってしまいました。
 やはり痛みとずっと付き合っていかないといけないのだなと覚悟を決めた08年はじめ、何か面白そうな市民講座はないだろうかと眺めていた新聞で、慢性疾患セルフマネジメントのワークショップ(WS)が開かれることを知りました。
 それまでも市民講座は好きで、あれこれ通っていましたし、病気とうまくつきあっていきたいと考えていたところでしたので、字を見た瞬間にやろうと決めていました。驚いたのは、我が道を行くタイプで由美子さんと一緒に何かするなどということのなかった和則さんが、自分も受けると言い出したことでした。
 どうやら甲斐さんが病気になってから少し反省し、サポートの仕方を模索していたようでした。そんなことを考えてくれていたのかと、とても嬉しかったと言います。
 WSを受けて、「病気を受け入れないと次の良い一歩が踏み出せないな、と改めて認識しました。先のことばかり見ずに今できることを着実にと思うようになりました」と言います。
 元々楽観的な性格でしたが、以降くよくよと落ち込むことがほとんどなくなり、そして学んだことに背中を押されるように、新しい治療法である生物製剤に09年7月からチャレンジしたところ劇的に楽になりました。
 日々の心の支えになっているのは、WSで出会った仲間たちです。同じような慢性疾患を抱えていても頑張って生きてる人が大勢いるんだな、と大変に感動しました。ずっと昔からの知り合いのような気がしていると言います。和則さんも同じようなことを感じていたようでした。
 「講座の細かい内容は半年ほどで抜けちゃって元の木阿弥になったかな。でも、あの時に感じた、独りじゃないんだという確信はいつまでも残っています」

ワンポイントアドバイス(近藤房恵・米サミュエルメリット大学准教授) 慢性の病気は完治することはまれですが、医学の日進月歩によって新しい治療法や新薬が常に紹介されています。また、慢性の病気をもっていると、友人や知人から様々な民間療法を薦められることもあり、情報過多で混乱してしまいそうです。ワークショップでは、聞いた情報を評価し、新しい治療法を始めるかどうかを決断するために考慮すべき事柄について教えます。それは「どこからの情報か」、「成果を挙げているといわれている人と自分との比較」、「新しい治療法に伴うリスクや費用、精神的な負担は」等々です。このようなプロセスを踏むことで、新しい治療法を始めるときの心構えができます。
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