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治療が消える 治療を守る⑬

医療機器や医療材料の供給に関する構造的課題を探っていくコーナーです。

他にもある不透明さ

 新たな医療機器や医薬品に保険適用を認めるか否か、正式に審議する場である中央社会保険医療協議会(中医協)とその下部組織に諮られる前に、厚労省が秘密裏に日本医師会の疑義解釈委員会という非公開の存在に諮っているということを5回かけて明らかにしてきました。
 部外者からするとビックリ仰天するような話であるにもかかわらず、当事者たちに変なことをしているという意識が薄いことも、5回を通じてお分かりいただけたことと思います。しかし当事者たちがいかに正当化しようとも、国民・患者の立場から見る限り、不透明としか表現しようがありません。
 しかも困ったことに、医薬品や医療機器の保険収載に関する不透明さは、これだけでは済まないのです。問題意識が社会に共有されつつある承認審査の問題に加え、保険収載に関する不透明さが文字通り見えない障壁として存在するため、日本で使える医療機器は欧米の半分しかないという状態を生じさせています。患者からすると、勘弁してほしい話です。

規制・制度改革の対象

 一昨年からの事業仕分けで存在感をアピールした内閣府・行政刷新会議の傘下に、『規制・制度改革に関する分科会』というものがあります。国をけん引する成長産業として医療などを位置付けた09年12月30日付の新成長戦略実現のため、成長の阻害要因を、さらに下部組織の3つのワーキンググループ(WG)で洗い出しています。
 医療・介護分野を担当するライフイノベーションWGは、10年4月に1クール、10月から12月にもう1クール、計9回の会合をもって検討を行いました。このWGもこれまた非公開なのが残念なところですが、どのような議論が行われているかは、webで公開されている議事概要から、うかがい知ることができます。
 2クール目の議論の中で、やはりというべきか、『医薬品・医療機器におけるイノベーションの適切な評価の実施』という項目が挙がって来ています。
 当コーナーでも指摘してきたようなことが書かれていますので、復習の意味も込めて、若干長いのですが、『基本的考え方』の一部を引用します。
「○医療機器は、機能区分ごとに価格が決定されているため、改良改善がなされた機器であっても、現行の製品と同じ機能であると判断された場合、改良改善前の製品と同一の区分、同一の価格となる。
○さらに平成14年4月に導入された『再算定制度』は、すでに5回適用され、当初内外価格差の代表的な例として挙げられていた製品の価格も大幅に下がった(略)。
○「機能区分制度」との組み合わせにより、医療機器企業は、2年に1度の診療報酬改定による自社製品の償還価格低下率を全く予測不可能となっている。
○これらの結果、医療機器企業においては、改善・改良、新製品開発及び製品導入の意欲が減退し(略)」
 勘違いされやすいので注意が必要ですが、売り手が高く売りたい、買い手は安く買いたい、とお互いのベクトルが反対になるのは当然の話で、それが単純に批判されているわけではありません。問題は、不透明な決まり方です。

何となく五里霧中

 「適切な評価の実施」を訴え行動している業界団体の一つ、医療機器産業連合会(医機連)の荻野和郎会長(日本光電工会長)は今年1月の記者会見の席上、「何が適切でないのか」という質問に対して、以下のように説明しました。
 「お互い(厚労省と企業)具体的に納得できる議論をしていかないと、何となく五里霧中でやっていることになりかねない。(略)厚労省の方がどういう形でそういうことを評価されているか、我々にはよく見えませんので(略)」
 医機連では今年の早いうちに、価格の決まり方の案を厚労省に提案したいそうです。現状は、企業側からすると、霧の中から突然価格提示されるようなものなのかもしれません。しかも前回まで書いて来たように、疑義解釈委員会という見えない関門があり、保険収載時期の見通しが立ちづらくなっています。さらに一度価格が付いても、2年に1度どれだけ下げられるのか予測が付きません。
 新たな価値を生み出すためには初期の開発投資が必要ですが、必要な資金の量も、それがどの程度の期間で回収できそうなのかも、予測が立たないということになります。民間企業で働いたことのある方にとっては、この不透明さがいかに恐ろしいことか、よくお分かりいただけることと思います。
 ただし、ライフイノベーションWG側の問題提起に対して、厚労省は
「○製品別収載制度とすることは、検査及び特定保険医療材料について、価格競争等の効果が損なわれる。(略)
○平成22年度診療報酬改定時において17区分について再算定を行うなど内外価格差は現存しており、内外価格差は患者の負担を重くするものでもあり(後略)」
と、ほぼゼロ回答でした。双方が患者の利益代弁者を主張し合って、話が噛み合っていないようにも見えます。
 財務省から配分される予算ありきで、資金の調達とか回収とかいう発想のない役所の中にいると、一体何が問題なのか分からないのかもしれません。
 しかし、グローバル化が進んだ21世紀は、資金が国境を越えて自由に動き回ります。投資回収の見通しが不透明な産業領域からは資金が逃げ出し、どんどんジリ貧になります。
 1月に日本から最新の医薬品や医療機器を生み出していこうと内閣官房に設置された医療イノベーション推進室の中村祐輔室長(東大医科研ヒトゲノム解析センター長、昨年の本誌連載『あなたにオーダーメイド医療を』でおなじみ)は初日の記者会見で、日本の課題としての価格の決まり方の不透明さについて「視野に入っている」と述べました。前出の荻野・医機連会長も、上部組織にあたる医療イノベーション会議のオブザーバーになっており、問題意識は共有されつつあるのかもしれません。
 次回は、名称の出てきた「機能区分制度」など、具体的に何が問題なのかを見ていきます。

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