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治療が消える 治療を守る⑮

医療機器や医療材料の供給に関する構造的課題を探っていくコーナーです。

再算定制度の問題点

 昨年12月、英国の人材調査会社『ecaインターナショナル』が、こんな調査結果を発表しました。曰く、世界で最も生活費の高い都市は東京である、と。ちなみに、3位は名古屋、4位が横浜、5位も神戸でした。日本の物価が高いということは間違いなさそうです。
 一方で、このように高い物価に対して、国が、為替以外の方法で何か強制力を持って介入したとは聞いたことがありません。たとえば、他国に比べて不動産の賃料が高すぎるから下げさせたなんて話、ないですよね。
 当たり前です。それは権力の濫用ですし、たとえそういう介入が許されたとしても、そもそも国ごとに背景事情が異なるのに、特定の商品の価格だけ取り出して云々するのは乱暴すぎるからです。
 ところが、そういう国による強制引き下げの続けられている業界があります。書かなくてもお分かりですね。そう、医薬品と医療機器です。健康保険を使う場合という限定は付きますが、現実問題として健康保険を使わないことはまずあり得ないので、実質的に強制介入と同じことです。

高値づかみなのか

 この介入の仕組みこそ、業界が「適正な評価」のため強く改善を求めているとして前回ご紹介した三つのうち、説明の済んでいなかった「外国価格参照制度(FAP)」です。
 この制度は、機器などが新しく保険収載されて償還価格を決定される際、または2年に1度の診療報酬改定が行われる際、その製品に米、英、独、仏の4カ国でいくらのメーカー希望価格や保険償還価格が付いているかを調査し、その相加平均価格の1.5倍より日本の保険償還価格が高い場合には強制的に1.5倍まで引き下げるというものです。
 基本的な発想は、海外製品を高値づかみさせられないよう、世界の中で安く売られているのなら、国内価格も下げさせようということになります。
 国民みんなの保険料で賄われて医療が成立していることからすれば、当然の考え方に見えるかもしれません。医療機器の価格が諸外国に比べて高いので引き下げるべしというのは、中央社会保険医療協議会(中医協)で常に議題になっています。
 しかし、そもそもの疑問として、本当に世界の他の国ときちんと比較などできるものなのでしょうか。
 医療機器の場合、いわゆる工場製造原価以外に、薬事承認や保険収載を得るためのコスト、営業のためのコスト、在庫管理のためのコストなども必要です。そして2010年9月号の当欄でも紹介したように、現在の日本は工場製造原価以外のコストが欧米よりケタ違いに高いのです。冒頭の通り、日本は元々物価が高いのですし、また欧米に比べて非効率な産官学のもたれ合いも残っています。
 しかも比較対象となるのは、実は自社の当該製品だけでなく、同じ機能区分に属する他社製品もです。この問題は前回も指摘しました。そのように正当な比較かどうか怪しいにもかかわらず、国から介入されてしまうのです。
 そして、どの程度介入されるかを事前に正確に予測するのは相当に困難です。その不透明さを海外メーカーが嫌う結果として、最新の機器が日本に入って来なくなるという不利益が現実に生じています。医療機器として使えるアイテム数は欧米の2分の1です。
 海外メーカーだけでなく国内の業界団体からも制度見直しの要望が出ています。たとえ国内価格も海外価格も変わっていなかったとしても、円高によって円換算した4カ国の平均価格が下がると、保険償還価格を強制的に引き下げられる、こういう変な話だからです。

制度に歴史あり

 ただし、制度見直しを求める声は、いまだ多数派とは言えません。医療費全体に対する財務省の締め付けが厳しいというのはもちろん、制度開始当初の記憶が関係者の脳裏にこびりついていることも原因になっているようです。
 以前にも紹介したように、96年に日本貿易振興会(JETRO)が実施した『対日アクセス実態調査』では、外国製のカテーテルやペースメーカーの中に、国内価格が米英独仏の平均価格の4倍を超えているものがありました。
 当時の状況を知る関係者によると、自動車などの輸出で生じた貿易黒字を、医療機器などの輸入で少しでも小さくするという国レベルの産業交渉があって高く買わされている、と医療業界内では信じられていました。その交渉は、日米通商交渉(通称・MOSS協議)と呼ばれていました。それに対して、厚生省側が反撃の手段として用いたのが海外価格参照制度であり、その厚生省の動きを応援したのが日本医師会の疑義解釈委員会だったというのです。
 当時そのようなバーターがあったかどうか真偽のほどは定かでありませんが、制度導入以降、内外価格差が急速に解消されたことは事実です。
 問題は、今もそのような価格差が残っているのか、制度が国民の利益につながっているかです。
 中医協の資料によれば、2010年改定でこの制度によって再算定されたのは、全機能区分の2%にあたる17区分に過ぎませんでした。既に、日本に初めて導入される医療機器も、大多数は海外平均価格以下の償還価格が付いています。現段階で1.5倍以上の機能区分は既に皆無に近いと予想されるためか、中医協では次の改定へ向け、調査対象の4カ国にオーストラリアを加えてはどうかとか、飛び抜けて価格の高い国(要するに米国のことです)を除外してはどうかといったように、相加平均価格をさらに下げようという提案がなされています。
 しかし、そろそろ安物買いの銭失いになっているだけではないかという自省が必要な時期に来ているかもしれません。医薬品で、内外価格差を解消しようという制度が過剰に働いた結果、大きなドラッグラグが発生し、国民の命を救える医薬品が日本に入らなくなってしまったことは、皆さんご存じの通りです。医療機器でも、まさに同じことが進行し拡大中なのです。

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