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治療が消える 治療を守る⑯完

医療機器や医療材料の供給に関する構造的問題を探っていくコーナーの最終回です。

審議会に任せるのか

 東日本大震災に引き続いて起きた福島第一原発の事故には、驚かされることばかりす。なかでも錚々たるメンバーを集めて麗々しく行われていた原子力安全委員会が、実は行政や業界にお墨付き(免罪符)を与えるだけで、安全性を担保するという本来の機能を全く果たしていなかったと分かったことは、皆さんにとっても衝撃的だったのではないでしょうか?
 しかしよく考えてみると、審議会が本来の機能を果たさず、行政や業界の追認機関に堕しているという話、医療界にもなかったでしょうか。医療における原子力安全委員会のような存在は、社会保障審議会であり中央社会保険医療協議会(中医協)であるということになると思われます。
 既に弊誌論説委員の新井裕充が、著書『行列のできる審議会』(ロハスメディカル叢書)の中で、中医協で、どれほど茶番じみた議論が行われているか白日の下にさらしました。しかし残念ながら依然として、それを反省し改めようという動きは行政や業界内から起こってきていません。
 そろそろ国民の側でも、「詳しくは知らない」でなく、何がどのように議論され、どのように政策に反映されているのか把握し、本当に国民が必要としている医療制度の議論がなされているのか、しっかり確認すべき時に来ているのではないでしょうか。

国民の願いは?

 さて昨年、米国医療機器・IVD工業会(AMDD)が、40代から60代の日本人2000人を対象に意識調査したそうです。昨年12月に発表された結果によると、74%の人は「世界の最新の医療技術での診断や治療」を希望したいと答え、そのうち66%、つまり全体の約半数にあたる人は、「医療費が多少高くなっても希望する」と答えたとのことです。
 ちなみに、この2000人のうち現在の健康状態が「良くない」という人は24%に過ぎませんでしたが、10年後の健康状態が「不安・心配」という人は77%にハネ上がります。年齢が上がれば健康に問題が出てくるのは世の常ですから当然といえば当然ですが、最新の医療に対する膨大な潜在ニーズがあることになります。程度の差こそあれ、これが国民の願いなのです。
 だからこそ政府与党も、21世紀の日本をけん引する成長産業として、医療介護分野を挙げているのでしょう。
 政府は4月8日に19項目の規制・制度改革方針を閣議決定し、医療介護に関しても自然な成長をめざそうとしています。しかし政府の一員であるはずの厚生労働省の姿勢は、ニーズを顕在化させないよう抑え込むことで首尾一貫しているようです。
 社会保障分野に関する政府改革方針の原案を作ったワーキンググループの主査、土屋了介・がん研究会理事は「厚労省は、患者や国民の視点から見てどうあるべきかではなく、法令や省令でこう決まっているといった教条主義の主張ばかりする。本来それを正すべき中医協なども、業界側の目線に偏り、国民・患者目線を失って硬直化していないか。改めて点検する必要がある」と語ります。

隠され議論できない

 このように、厚労省の姿勢には、同じ政府内部からも批判があるのです。国民が改革を要求することがあってもよいはずですが、その機運が高まったとは聞こえてきません。むしろ改革派の医師たちからは、医療の状況を改善しようとする動きが止まってしまったとの嘆きすら聞こえてきます。
 なぜ機運が高まらないのでしょう。
 先ほどご紹介したAMDD調査の中に、一つ興味深い項目があります。
 当欄でも何度か書いてきたことですが、日本で使える医療機器のアイテム数は欧米の半分しかありません。しかし、このことを知っているのは、全体の20%に過ぎませんでした。
 つまり、「知らしむべからず、依らしむべし」でずっと来た結果、日本が遅れているということを単に知らず問題意識も沸かない、声を上げたくても上げられないだけなのかもしれないのです。
 そんなはずはない、欧米の状況も、それと比較した日本の状況もマスメディアが教えてくれるはずと思った方もいることでしょう。でも本当にマスメディアは報じているでしょうか?
 欧米と日本の状況の違いを一番よく分かっているのは、当然のことながらメーカーであり業界です。しかし、これも何度か説明してきているように、欧米で使われている医薬品や医療機器についてメーカー自ら国民に知らせることは薬事法の広告規制に抵触するため、知っていても言えないという状態があります。
 『さらば厚労省』という著書のある元厚労省大臣政策室政策官で医師の村重直子氏は、医療に関するデータを厚労省だけが抱え込み公開していないため、真っ当な議論も生まれないし、日本社会の知恵を広く生かすこともできなくなっていると指摘します。たまたま目ざといメディアが気づいた場合だけ報道されるのであって、大事なことだから必ず報道されるとは限らないのです。

お任せ続けますか

 日本は先進国で、水準の高い医療が効率的に行われている、と一般には思われています。しかし2年前の年末に輸入医療材料が欠品し骨髄移植できなくなるという事態が起きました。驚いて取材してみたのが、この連載のきっかけでした。
 すると、出てくるわ、出てくるわ。日本で手に入らない医療機器・材料が大量にあること、その背景に薬事承認の問題や保険償還の問題があること、そこに日本医師会の疑義解釈委員会など法的根拠のない組織が何十年も関与していることなど、本当に日本は民主主義の先進国なのかと思わざるを得ない事実に次々と突き当たりました。
 このような不透明な状況を放置していると、現在既に起きているデバイスギャップだけでなく、将来どのような不利益が国民を襲うか分かったものではありません。
 今、行政に適切な情報公開を求めなければ、将来、適切な医療が受けられなくなって私たち自身が困るかもしれないのです。
 皆さん、お任せを続けますか?

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