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がん③ 緩和ケア、なぜ大切なのか

その痛み、我慢は禁物です。

 転移・再発固形がんでは、発現する時期や強さに個人差はあるものの、ほとんどに痛みが伴います。がんそのものによる痛みの他に、手術、放射線、抗がん剤など抗腫瘍治療による痛みなど原因は様々で、複数の原因で起こっている場合も少なくありません。
 日本人は我慢を美徳と考えがちですが、こと痛みに関する限り我慢して良いことはありません。がんの痛みは持続し、段々強くなって行きます。我慢すると脳神経系が痛みを記憶してしまい、鎮痛薬などで痛みの治療を開始しても、すぐに痛みが消えないこともあります。また、痛みは不眠、食欲不振、不安、抑うつなどの原因となり、これらの症状がさらに痛みの感じ方を増強して、「痛みの負のスパイラル」に陥ります。その結果、心身共に衰弱・消耗し、QOLは低下、抗がん剤治療を受ける体力もなくなってしまいます。余命まで短縮する場合もあります。
 痛みがコントロールされなければ、患者さんを見守り支えている家族のQOLやメンタル面も下がってしまいます。すなわち家族全員が苦しむことになります。

痛みの取り方

 がんの痛みの治療の第一目標は、夜痛みがなく眠れる。第二目標が、日中の安静時に痛みが出ない。そして第三目標が、身体を動かしても痛まない、です。
 がんの痛みの世界標準治療は、25年前の1986年に公表された「WHO方式がん疼痛治療法」です。軽い痛みには、非ステロイド消炎鎮痛薬(ロキソプロフェンやアセトアミノフェン)から開始します。これだけで痛みが十分に消えない時はモルヒネなどの医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬とも言います)を追加します。
 ところが我が国は、単に緩和ケア後進国であるだけでなく、痛みの治療に関しても遅れています。オピオイド鎮痛薬をうまく使いこなせる医師が少なく、国民の間にも、モルヒネに対して、「中毒になる」、「廃人になる」、「気が変になる」、「死を早める」、「死の直前に使用する薬」など、多くの誤解があります。結果として、先進国中医療用麻薬の使用量が最も少ない国になってしまいました。
 実際には、適正にモルヒネを使用することは苦痛緩和と延命に寄与する、との複数の研究報告が海外から示されています。
 近年ようやくモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルという3種類の医療用麻薬、いわゆるオピオイド鎮痛薬が使用できるようになりました。この3種類は、内服薬、貼付薬、座薬、注射製剤など、患者さんの病状や好みで使い分けできます。
 医療用麻薬は痛みが和らぐ限り上限はなく、患者さんによって適量は異なります。はやりの「オーダーメイド治療」の元祖とも言えます。
 ただ、がんが神経を圧迫したり傷つけた場合は、医療用麻薬だけでは取れない「神経障害性疼痛」が出ます。この痛みに対しては、非ステロイド消炎鎮痛薬、医療用麻薬に加え、鎮痛補助薬を併用します。鎮痛補助薬には、本来は痛み止めではない、抗けいれん(てんかん)薬、抗うつ薬、抗不整脈薬、ステロイド剤などがあります。医師がこれらの薬を処方した際、「てんかんやうつ病ではないのに」と思われるかもしれませんが、あくまでこれらの薬がもつ特殊な作用機序を利用して難治性の痛みに対処しているので誤解しないで下さい。
 痛みの原因によっては、放射線治療、神経ブロック(硬膜外神経ブロック、くも膜下神経ブロックなど)、ビスフォスフォネート製剤、インターベンショナルラジオロジー(IVR)、手術なども用いられます。
 骨転移に対する放射線治療の奏効率は高く、鎮痛薬を減量したり中止したりできる場合も少なくありません。
 また、ビスフォスフォネート製剤は、外来で4週間に1回15分の点滴を受けることで、様々ながんの骨転移の疼痛を和らげたり転移した骨の病的骨折を予防できます。ただ、抜歯などを受けた患者さんなどには、まれに顎骨壊死という重篤な副作用が発現するので、使用前には歯科を受診しましょう(さらに詳しい情報はこちら)。

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