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研修医が見た米国医療17

研修医でも普通に出産子育てできる

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。

 日本では女性医師の離職率の高さが問題となっています。ある調査では、医学部卒業後10年以内に半数ほどの女性医師が離職を経験するとされ、最も多い理由が出産・子育てです。多くはその後職場復帰するようですが、一度現場を離れてしまうと復帰への障壁は多く、昇進もしづらいのが現状です。それが医師不足に拍車をかけていると考えられています。それに比べ、米国では研修医も普通に出産し、働きながら子育てすることが一般的です。
 それが可能な背景として、米国は日本と比べ二つの大きな違いがあります。一つ目は、出産育児休暇が極端に短いこと。米国の女性研修医は出産直前まで働き、出産後は1カ月ほどで復帰します。1カ月の休みは年休をあて、その前後に比較的楽な研修をあてるなどして対応します。これが可能なのは、日本に比べ働く時間が短く、ほとんど残業がないためでもあります。働いていても睡眠時間がしっかり取れ、帰宅時間が予想可能なので予定が立てやすいのです。出産を控えた同僚に日本のように長い出産育児休暇がある方がいいのではないか? と訊いたところ、「体力的には大変だが、精神的にはこっちの方が楽」と言っていました。長い休暇を取る場合は、どうしても後ろめたさを感じてしまうようです。大きなおなかを抱えて仕事をしている女性医師を見ると「母親強し」と思わずにはいられません。
 もう一つは、ベビーシッター制が発達していることです。出産する女性研修医は共働きであることがほとんどなので、日中は誰かに子どもを預けなくてはいけません。生後数カ月の早い時期から預ける必要があるため、多くの場合ベビーシッターを雇います。一般的な相場が時給10~15ドルほどと、研修医でも十分ベビーシッターを雇えることも重要です。こちらではその市場が大きく、学生などにとってベビーシッターは有効なアルバイトの一つなのです。
 ベビーシッターの選び方は人それぞれです。紹介会社を通じて探したり、知り合いから紹介してもらったり、インターネットで自ら探したりします。雇う際には、そのベビーシッターの前の雇用主に連絡を取って働きぶりを聞き、その上で面接をして決めるのが一般的です。日本だと子供を他人に預けることに抵抗がある方が多いと思いますが、米国でも信頼できる人に預けたいという気持ちは同じです。共働きの場合、1歳に満たない子供を毎日10時間ほど預けるわけで、その選定には慎重を期します。
 こうして研修の継続が可能になるわけですが、それでも決して楽なものではありません。母乳育児なら母乳を搾って保存しなければなりませんし、家に帰ったら夜は育児が待っています。子供がいても仕事内容は他の研修医と変わらないため、夜間や休日の当直もやらなくてはいけません。仕事上で差別されない代わりに、優遇措置もありません。確かに大変ですが、それが研修医でも働きながら出産し、子育てできるための大事な点だといえるでしょう。

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