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研修医が見た米国医療18

私も出産立ち会い 3日間の無条件休暇

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。

 ニューヨークに来て驚いたことの一つは、ベビーカーを押す男性の多さです。日本では育児に積極的な「イクメン」が注目されていますが、その点で米国は明らかに先進国と言えるでしょう。父親が出産に立ち会うこと、育児参加することは、米国では当然の行為と考えられています。研修医でも特に妻の出産時には、夫が立ち会うためのサポート体制が整っています。
 昨年長男が生まれたとき、私はCCU(循環器集中治療室)勤務でした。重篤な心臓疾患を抱えた重症の患者さんが入院する病棟です。前々からその時期に生まれることは分かっていたため、事前に上司に相談したところ、妻の出産の際に夫は3日間まで無条件に休みを取れるとのことでした。陣痛が始まったら連絡を入れ、後は代わりの人が自分の穴を埋めてくれます。もちろん有給扱いの休暇ですし、後でその埋め合わせをする必要もありません。
 これが可能なのも、常に不測の事態が起こったときに備えてのバックアップ体制が整っているためです。研修医が風邪を引いた、身内に不幸があったなど、急に欠勤せざるを得なくなったときに、病棟を人手不足にさせるわけにはいきません。そういった際に呼ばれる予備人員として、外来研修や選択研修期間中の研修医が、毎日持ち回りであてがわれているのです。
 真夜中に妻の陣痛が始まり、私は上司に連絡を入れました。私は3日も休むのが申し訳なく、産後経過に問題なさそうであればすぐにでも復帰する旨を申し出ましたが、有無を言わさず3日の休みを取るように言われました。米国では通常産後2日間入院しますが、夫がその間付き添って身の回りの世話や子どもの面倒を見るのが当たり前なのです。むしろ休みを取らず、仕事をしていると周りから奇妙な目で見られるようです。
 結局私は3日間の休みを取り、仕事に戻りました。今考えてみると、ずっと妻に付き添っていた方が、仕事よりも重労働だった気がします。もちろん妻の方がはるかに重労働だったに違いありませんが......。
 勤務状況によって違いはありますが、日本ではまだ男性医師が出産に立ち会うのは難しいのが現状だと思います。当直中に妻が産気づいた場合、代わってくれる人は誰もいませんし、目の前の患者さんを放って出産に駆けつけるわけにもいきません。医者という人を救う職業である以上、プライベートより仕事を優先すべきという考えが一般的なのではないでしょうか。
 医師たるもの24時間365日医師であれ、という文句はよく耳にしますし、純然かつ高潔な印象を与えます。医師が高い倫理観を持って仕事に当たるべきとは私も思います。しかし医師にとっても、家族の幸せは患者さんの幸せと同等に大切です。24時間医師であり続ける場合、様々な局面で家族を犠牲にせざるを得ません。身近な人を犠牲にしないと成り立たない医療のあり方は、私にはどうしても健全とは思えません。

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