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がん⑧ 放射線治療なぜ効くのか

放射線と薬物療法のハイブリッド

 最後にご紹介するのは、これまでの放射線治療のイメージを覆す画期的な手法。放射線を出す抗体製剤(モノクローナル抗体。10月号参照)を体に注射する「RI標識抗体療法」です。
 抗体製剤については、前回の分子標的薬のところで、「遺伝子組み換えによって人工的につくられた抗体で、がん細胞にだけある特定のレセプターや情報伝達物質に取り付いて、その働きを阻害したりして効果を発揮するもの」とご説明しました。
 その代表例として名前だけ触れたリツキサン(リツキシマブ、主にB細胞性リンパ腫に有効)は、がん化した免疫細胞の表面にある「CD20」というタンパク質に結合します。その上で、主に体の本来の免疫機能を利用してがん細胞を攻撃するのです。
 このリツキシマブと同じくCD20抗体であるイブリツモマブに、イットリウム90やインジウム111といったRIを結合させた薬が開発されました。それを使うのが、RI標識抗体療法です。
 いわば抗体製剤と放射線のハイブリッド型治療で、抗体療法としての攻撃作用に加えて、標的であるがん細胞を確実に捉え、RIから発せられる放射線で直接的に攻撃します。複数の悪性リンパ腫で効果が認められ、実用化されています。
 なお、イットリウム90からの放射線(ベータ線)は、体内では分布の中心から平均5.3mmの範囲にしか影響を及ぼしません。ですから、ご家族や介護の方など周りの人を放射線から守るためだけに入院する必要はありません。ただし投与後3日間は長時間や密着するような接触を避け、血液や尿中に含まれる放射線についても、傷を作って出血したらよく洗い流し、トイレもしっかり流すようにします。
 とはいえ患者さん本人については、当然ながら低線量被曝はあり、正常な血液細胞の造血能も落ちるもの。その他の副作用もないわけではありません。効果のある症例も悪性リンパ腫の一部に限られることは、ご承知おきください。

足りない放射線治療の専門医

 これまで見てきたように、治療機器の進歩により、今では放射線治療の治療効果は格段に高くなり、副作用は大幅に低減されています。ただ、最新放射線治療機器は高額で施設にも大きな費用がかかるため、設置されている施設とない施設で、病院間の格差も大きくなっています。のみならず日本では、海外と比べて高度な治療機器が設置されていても、十分に活用されていないことも少なくないと言います。
 最大の障害は、放射線治療の専門家(放射線治療専門医、放射線治療専門技師、医学物理士、放射線治療認定看護師)がまったくもって足りないこと。1回の放射線量をどれくらいにし、何回程度放射したらよいかなどの治療計画は、がんの種類、大きさ、患者の状態などから総合的に判断しなくてはなりません。抗がん剤ほどではないにせよ副作用もあり、稀とはいえ重篤な晩発性障害もありえます。となると高度な治療機器も、医師の適切な判断が得られない状態では宝の持ち腐れとなってしまうのです。にもかかわらず、日本では医学部でも、放射線医療についての教育は十分に時間が確保されていません。
 確かにこれまで日本のがん医療は外科が牽引し、世界的にも良好な成績を修めてきました。放射線治療で手術と同等の生存率が得られる場合でも、手術を第一選択とすることがまだまだ多いのには、そんな経緯もあるようです。
 欧米では、がん患者の6割以上が放射線治療を受けています。がん治療を始める際には主治医とよく相談し、場合によってはセカンドオピニオンも活用しつつ、放射線治療の可能性を検討してみてもよいかもしれません。

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