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がん⑨ がんワクチンなぜ効くのか

75-1-1.JPG感染症予防でおなじみのワクチン。しかし、がんは遺伝子の突然変異が本質のはず。そのワクチンとは一体どういうものでしょうか。
監修/石井浩 がん研有明病院消化器内科ペプチドワクチン療法担当副部長

 ワクチンでがんを治療する、そう聞いて皆さんはどうお感じになるでしょうか。一瞬「あれっ」と首をかしげませんか? ワクチンと言えば、インフルエンザなど感染症を予防する目的で注射するのがおなじみですよね。ですが、がんは、体の内外からのストレスで遺伝子が傷つけられたり、遺伝子のコピーミスが起きて生まれた異常な細胞。増殖を制御する仕組みが壊れていて、しかも免疫システムの網をかいくぐって生き残ってしまった時に、秩序なく勝手に増え続けるのです。となると、がんに対するワクチン療法は、どう理解すればよいのでしょう。

がん特異的に免疫力を高める

 ワクチンの考え方の基本は、特定の病原体が体内に侵入する前にその病原体に対する(=特異的な)免疫力を高めておこう、というもの。そもそも「免疫」の「疫」は伝染病を意味していて、それを「免」れるために体に備わっているシステムを活用しようということです。
 これまでの免疫特集(2010年10月号)などを思い出してみてください。私たちの体の中では絶えず、「自己」でないもの(抗原)を排除する仕組みが働いています。なかでも免疫細胞の一種であるリンパ球は、病原体を1種類ずつ、特異的に認識して排除した上、その相手を記憶して、再び同じ病原体に出会ったときにすぐに認識・排除に移れるよう準備します(抗原抗体反応)。これをうまく利用したのがワクチンで、毒性を弱めたり死滅させた病原体を接種してリンパ球にあらかじめ記憶させ、襲来本番に備えるわけです。
 さて一方、「がんを治すワクチン」という発想の始まりは、1991年にヒトのがんで初めて、「正常組織ではほとんど発現が見られず、がんでのみ発現が認められる遺伝子」が確認されたことに遡ります。この遺伝子をもとに生み出される物質を「がん抗原」として標的にすれば、抗がん剤や放射線治療と違って正常組織を傷害することなく、がん細胞のみを攻撃することが可能だろう、という考え方が出てきたのです。もちろん、副作用も起こりにくいことが予想されます。
 そこで本来の意味からはちょっと逸脱しますが、抗原抗体反応のような特異的な免疫応答を人為的に作り出すという点で、「ワクチン」の言葉が使われるようになりました。
 それまでにも患者自身の免疫力を高めてがん治療に応用する免疫療法はいろいろと試みられてきましたが、ナチュラルキラー細胞のように無差別に相手を攻撃する免疫細胞を活用するもので、効果もいま一つでした。がんワクチン療法は現在進行形で研究が進み、成果を上げつつあります。理想としてきた「がんに厳しく、患者にやさしい」治療法の実現へ、ようやく光が見え始めたと言えるでしょう。

あれはがんワクチン? 近年、子宮頸がんワクチンの接種が奨励されていますが、これは子宮頸がんを誘発するヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐもの。HPVに感染しても通常は免疫力で排除されるのですが、感染が長期化すると一部で子宮頸部の細胞に異常を生じ、10年以上経って子宮頸がんに進行してしまうことがあります。そこでHPV感染を防いで子宮頸がんを防ごうというわけで、がん細胞に直接働きかけるものではありません。▽一方、40年近く前にがんの特効薬として噂が急速に広まった「丸山ワクチン」。特異的免疫応答でなく、免疫力全般を高めてがんを封じ込めようとする手法の典型例です。ただ、もともとは皮膚結核の治療薬で、抗がん効果も否定はできないものの、今も抗がん剤としての薬効は証明されていません。▽というわけで、どちらも現在注目を集めているがんワクチン療法とは別物ですのでご承知おきください。
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