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研修医が見た米国医療19

保険に大きな格差 医療の内容を制限

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。

 以前、米国の無保険者の現実について書きましたが、保険に入っていても受けられる医療に制限があることをご存じでしょうか?
 外来でこんな患者さんがいました。その方は55歳で会社勤め、会社負担で医療保険にも入っています。ところが、最近勤め先の会社が保険会社との契約を更新し、保険プランが変更されました。すると、今まで使っていた高脂血症の薬が保険でカバーされなくなってしまったのです。高脂血症薬にはいくつか種類がありますが、その患者さんは少し値段の張る薬を使っていました。保険会社の通達によると、その薬は自己負担になるので、他の安い薬に変えてもらうか、特別その薬が必要な理由を医師から書いてもらい保険会社まで書類を提出するように、とのことでした。
 米国診療では一般的な、高価な薬を処方する際に必要なこの書類、事前承認手続き(Preauthorization)と呼ばれています。安い保険だと、より多くの薬でこの手続きが必要となります。さらに、より煩雑な手続きを踏まないと保険の支払いが下りない薬、どんな手続きを取ってもカバーされない薬もあります。保険プランごとにそれらは大きく変わるため、医師はもちろんのこと、事務職員も誰一人として、どの薬がどのプランでカバーされるか明確に分かる人はいません。何かあるたびに保険会社に問い合わせて、どういう手続きが必要か訊くしか方法はないのです。患者さんが処方箋を薬局に持っていって初めて、保険が利かないと判明することもしばしばです。
 医療保険が会社から提供されている場合、会社がプランの内容や値段を保険会社と交渉して決定します。被雇用者には選択権や決定権はほとんどなく、自分の会社と保険会社の力関係や財務状況よって保険プランは毎年変更されることがあり、上記のような事例がしばしば起こります。同じ系統の薬でもそれぞれ違いはあるので、薬を変えることで結果的に高脂血症のコントロールが悪くなったり、思わぬ副作用が起きたりすることも、稀ではありますが起こります。
 不必要に高い薬が投与されていた場合、同様な効果のある安い薬に変えることで医療費が抑制されるように見えるかもしれません。しかしながら、手続きや確認に伴う時間的、人的コストは医療機関にはかなりの負担ですし、それは結果的に診察費用として患者さんに返ってきます。
 日本は薬の承認が遅いから、米国並みに速くすべきだという議論があります。確かに、同じ薬を比較した場合、承認されるのは米国の方が早いです。しかし、それは必ずしも一般国民がその薬を使えるということを意味していません。なぜなら、新薬は高いので、良い保険を持っていない限り、その薬は保険でカバーされないからです。日本では基本的に薬の承認は保険でカバーされることを意味しますから、新薬が広く一般国民の手に届く時期を比べたら、場合によっては日本の方が早いこともあるかもしれません。

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