文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

研修医が見た米国医療22

内科外来で普通に訊く 性生活の詳細
反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。

 皆さんは内科外来で、性生活について訊かれたことがありますか? 日本の医療機関で産婦人科を除いては、性生活習慣を質問されることは滅多にないと思います。ところが、米国の内科外来では一般的な質問事項の一つです。
 実際に訊く時はこのような感じです。「タバコは吸いますか?」「お酒は飲みますか?」などの質問に続き、一呼吸置いてこう言います。「ちょっと個人的な質問になりますが、これから性生活習慣について質問します。個人情報を秘匿する義務が医師にはありますので、他の方に話すことはありません。質問を続けてもよろしいですか?」相手が構わないと言えば、まずは「最近性交渉されていますか?」と訊きます。
 相手がそれに「はい」と答えた場合、「相手は男性ですか、女性ですか、それとも両方ですか?」「過去6カ月間で何人と性交渉を持ちましたか?」と続きます。そして、「性交渉の際はどのように避妊をしていますか?」「性交渉の際には必ずコンドームを使いますか?」「コンドームは途中からではなく、性交渉が始まった時につけるようにしていますか?」「今まで性感染症にかかった、もしくは検査をしたことはありますか?」などと訊いていきます。
 このような質問をする目的は、主に性感染症の予防及びスクリーニングです。同性愛者、複数の相手と性交渉を持つ人は性感染症にかかるリスクが高くなりますので、それを予防する手立てを教えることが大事です。コンドームに関する質問が具体的なのは、それが性感染症の有効な予防法だからです。すべての患者さんに性生活の質問をすることで、リスクの高い人をすくい出し、「かかる前に予防することが大事ですよ」と話すわけです。
 性感染症の中で、特に私たちが気にするのはHIVです。米国ではHIVの感染者が多く、ニューヨーク市の統計では、市内のHIV罹患者が10万人を超えるとされています。最近は抗HIV薬の発達により、HIV患者さんも普通の生活を送れるようになってきていますが、HIVが大きな健康上の問題であることに変わりはありません。
 米国と比較すると、日本でのHIVの感染率は低いですが、新規感染者は年々増加傾向にあります。日本ですべての患者さんに性生活の質問をするのが適当かどうか分かりませんが、若い人に性感染症の教育をすることは大事ではないかと個人的に思っています。
 ちなみに米国では、HIVの予防や早期発見を目指して行政を挙げての様々な取り組みがなされています。その中の一つが、救急外来受診時のHIVスクリーニング検査の実施です。本人が断らない限り、すべての患者さんにHIV検査を行うことで早期発見につなげようとするもので、実際に私の働く病院で導入されています。その実効性と費用対効果には疑問があるようですが、HIV罹患者の率が高いニューヨークの一部地域などでは、有効な取り組みなのかもしれません。

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
掲載号別アーカイブ