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食べ物と添加物と健康1

米国には科学情報 いっぱいあるのです。

大西睦子

ハーバード大学リサーチフェロー
医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンに。

 私は、元々は血液内科医です。5年前に渡米し、マウスを使って、リン酸が生体に与える影響の研究をしてきました。「リン酸」と言われてもピンと来ないと思いますけれども、かなり身近な話です。後でまた説明します。

 さて、5年間過ごしてみると、日本には日本の、米国には米国の良さがあるとつくづく思います。特に挙げたいのは、日本の食事の良さと、米国の情報の良さです。

 正直、多くの米国人の食事はあまり健康的とは言えません。それに対して日本食はとても健康的です。一方、米国では、食べ物が健康にどのような影響を与えるかの科学的な情報が、質量ともに充実し、普通にメディアで流されています。対して、日本のメディアに出ている情報は、非科学的で偏ったものが多いように感じます。

 医療ガバナンス学会発行のメールマガジンで、「人工甘味料を使ったゼロカロリーの炭酸清涼飲料水を飲んでいる人は、そうでない人よりメタボリックシンドロームの割合が高い」という米国の研究を紹介したところ、日本のメディアから問い合わせが殺到し、「知らなかったの?」と驚いたくらいです。

 私は間もなく帰国します。米国で次々と報告される科学的な栄養情報をお知らせしていくことで、日本の皆さんが健康的な食生活を送る助けになれたらと考え、この連載を始めることにしました。よろしくお願いします。

添加物でリンが過剰に

 まずは、私が研究してきた「リン酸」の話からさせてください。

 私たちの研究室では、『高リン酸が老化を促進する』ことを発見し報告しました。

 リンは、カルシウムの次に体内に多く存在するミネラルです。その約80%がカルシウムと結合して、骨や歯の成分となっています。残りは、細胞膜やDNA・RNAなどの構成成分となり、すべでの細胞に存在します。また、エネルギー源となるATPの成分としてエネルギー伝達に必要で、さらに糖や脂質代謝にも極めて重要な役割を担っています。

 私たちは、2種類のリンを食品から摂取しています。

 一つは、たんぱく質と結合している有機リンで、植物や動物に由来します。

 もう一つ、たんぱく質と結合していない無機リン酸は、食品添加物として加工食品、ファストフード、インスタント食品、調味料、清涼飲料水や菓子などに用いられています。具体的には、ハムやソーセージなどの練り製品で保存性と色や風味を良くするための結着剤として、インスタント麺などにはコシや色調をよくするための「かんすい」として、リン酸塩が混ざっています。瓶詰・缶詰には防腐剤として、清涼飲料水には酸味料として、多くの場合リン酸塩が用いられています。

 成人の1日に必要なリン摂取量は約1000mgです。2009年の国民健康栄養調査では、日本人の摂取量は、男性は平均1043mg、女性は平均908mgと報告されていますが、すべて有機リンの量です。

 また、有機リンの吸収率は20~40%なのに対して、無機リン酸はほぼ100%吸収されます。つまり現代の私たちは、無機リンの分だけ摂取過剰になっていると思われます。

 リンは、砂糖や塩と違い、味がありません。また、食品添加物は必ずしも全部表示するよう義務づけられてはいないため、日本人がどれだけ過剰に摂取しているのか明確には分かりません。

 ちなみに1990年代初頭、平均的なアメリカ人は食品添加物から1日約500mgのリンを摂取すると言われていましたが、最近では1日約1000mg摂取していると言われます。さらに、加工食品やファストフードの摂取が多い低所得者は、リンの摂取量も多いことが報告されています。

過剰だと起こること

 では、リンを過剰摂取すると何が起こるのでしょうか?

 以前から、カルシウムの吸収が阻害され、骨からカルシウムが流出し、骨密度低下の原因になるとは考えられていました。

 これに加えて最近、私たちが発見したのは、高リン酸が老化を促すことだったのです。

 若干、専門的になってしまいますが、私たちの研究は以下のようなものです。

 クロトー(Klotoh)という遺伝子の欠損したマウスは、血中のリン酸値が非常に高くなります。短命で、皮膚、性殖器や筋肉の萎縮、大動脈の石灰化など、早くから老化現象が起きます。

 このマウスに遺伝子操作や食事療法を行い、リン酸値を正常化させたところ、驚くことに老化現象のほとんどが改善しました。次に、高リン酸の食事を与えると、再び老化現象が起きたのです。

 こういった情報をどう受け止め、どう活用するかは皆さんの自由です。でも、せっかくの貴重な人生ですから、健康的に歳を重ねて、できるだけ楽しんでいただきたいなと願っています。

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