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輸血拒否の患者 詳細な説明義務~駒村和雄の異論・反論⑥

循環器内科医 駒村和雄
 皆さんは「相対的無輸血」という言葉をご存じですか。私自身、つい最近まで知りませんでした。「相対的」とは、「絶対的」ではない、という意味です。

 患者さんが輸血を拒否している場合に、「絶対的無輸血」は、輸血により救命できる可能性があっても輸血を行いません。対して「相対的無輸血」は、できる限り無輸血に努めるけれど、「輸血以外に救命手段がない」事態に至った場合は輸血を行います。

 この相対的無輸血で対応した病院が、患者さんの自己決定権や信教上の良心を侵害したとして、損害賠償を命じられたのが、平成12年判決の「エホバの証人輸血拒否事件」です。「患者の絶対的無輸血の希望を知っていた以上、医師らは病院の相対的無輸血の方針を伝えたうえで、患者がその病院での治療を選択するかどうかを決めさせるべきであった」という主旨の判決が出ました。この事例は、手術日をあらかじめ患者さんと相談して決める「待機的手術」と呼ばれるものでした。だからこそ余計に、充分に時間をかけて患者さんの意思確認をしなかったことが問題とされました。

 一方、緊急手術では、逆に絶対的無輸血で対応して賠償を命じられたケースがあります。

 平成17年判決の不整脈の検査中に心タンポナーデ(心臓の壁に穴が開き、心臓を包んでいる膜との間に血液が溜まって心臓を圧迫し最終的に動かなくしてしまう病気)を突然発症して死亡した事例です。患者さんは、輸血を受けることができないこと、輸血をしなかったために生じた損傷に関して医師及び病院職員等の責任を問わないことを記した「免責証書」を医師に差し入れていましたが、不充分な説明を前提とする差し入れだったと判断されたのです。

 無輸血を希望する患者さんに対しては、通常よりも詳細かつ正確に、検査や治療の必要性、その有効性及び安全性についての説明を行って、患者さんの充分な理解と同意を得る必要があるとの判決でした。

 どちらの判決も、輸血を行ったかどうか自体ではなく、事前に説明の足りなかったことが賠償に値すると判断されました。

 このため現在では、多くの医療機関が、救急医療など事前に患者の意思が確認できない状況における輸血に関して、あらかじめ方針を定め、それを院内に掲示したりホームページで示したりするようになりました。

 例えば、「救急搬送された場合や、院内での予期しない急変の場合など、時間的余裕がなく絶対的無輸血に対応する医療機関への転送が不可能で、輸血が救命に必要な時には緊急避難として輸血をさせていただきます。」といった具合です。一度ご覧になってみてください。

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