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米国で実習に参加 肌で感じる彼我の差~駒村和雄の異論・反論⑦

循環器内科医 駒村和雄
 何を思い立ったのか、自分でも明確な理由は判然としないのだが、GW中、ワシントンDCで米国内科学会の実習コースに参加した。

 シミュレーターや豚足を使って、心音の聴き分け、腰椎穿刺、足関節上腕血圧比の測定、縫合などを行い、講師から指導を受けるワークショップである。

 もちろん日本でも同様の研修会はある。違うのは、日本だと参加者のほぼ全員が若手医師だが、ワシントンでは私同様白髪の高齢医師が少なからず混じっていたという点だ。医師の生涯教育やシミュレーション教育に対して、米国の学会は多額の費用と人員を割いている。その実体験を兼ねて、還暦を機にもう一度学び直しをしたい。そしてもう一つ、伝説的な心音シミュレーターのハーヴェイ君と対面したかった。これが、理由と言えば理由である。

 ハーヴェイは40年前に製作された当時と基本性能は変わらず、指定プログラム番号をテンキーで打ち込む。臨床心臓病学教育研究会理事長の高階經和先生が25年前に発明したイチロー君は、昨年バージョンアップしてタブレットPCで作動し、心音や血圧をモニターに表示できる。機械としては圧倒的にイチローの勝ちである。しかしハーヴェイでの実習は実に楽しかった。平易な言葉で目の前で実際に患者さんを診ているように説明するアイオワ大の講師にはterrific(素晴らしい)との賞賛が送られた。教育には設備や道具も大事であるが、何より教師自身が要なのだと改めて認識した。

 30年前に生まれて初めて渡米した訪問先、それがワシントンDCだった。学会でのポスター発表を終えるや否や、同級生とリンカーン記念館やスミソニアン博物館を見物し、車で1時間のボルチモアへ留学中の先輩や同級生を訪れた。製薬企業の駐在員が、どんなワガママでも聞いてくれた。米国の大都市には必ず日本人が留学していた。シリコンバレーには日本企業が1社当たり数百人の社員を送り込んでおり、何年か後に三菱地所がロックフェラーセンターを買収して大きな反感を買った。

 今、学会の若手講師の多くは中国系、インド系、東欧系を思わせる名前で、日本人留学生を見かける機会はめっきり少なくなった。米国の医学会には、世界中から自腹でも医師が集まる。日本には、学会と大学、企業がお金を出し合わないと、海外の医師は来てくれない。

 世界水準を凌駕する卓越したマシン。世界に冠たるオモテナシ。そんなものがなくても、世界中から優れた人材が集結する米国。思うに、優れた指導者との千載一遇のチャンスに恵まれているからかもしれない。防弾チョッキの女性警官がたった1人警備していたホワイトハウスの鉄格子の前で、観光客が思い思いに写真撮影しているのを横目に、切磋琢磨の社会と寄合談合の社会の行く末が、頭をかすめた。

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