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公共の場の分煙 健康を守れない ~それって本当?

完全に仕切られた喫煙室があったとしても、周囲でタバコ臭さを感じるとしたら、受動喫煙してしまっています。

専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)
 東京五輪・パラリンピックを見据えて、受動喫煙防止対策を強化しようという健康増進法改正の作業が難航しています。

 日本呼吸器学会は、受動喫煙は空気清浄機などでは防げず、非喫煙者の肺がんリスクを20~30%増加させ、虚血性心疾患を引き起こすとしています。子どもでは、気管支喘息など呼吸器の病気や乳幼児突然死症候群などのリスクが高まります。また、日常的に受動喫煙している成人は、受動喫煙のない人より約15%死亡率が高くなるとした研究もあります。

 厚生労働省は今回の法改正で、飲食店について、原則億内禁煙にして喫煙室を認める方針で舌が、厳しすぎるという異論が自民党内に多く、動きが止まってしまいました。

 ただ、受動喫煙による健康被害を本当に防ごうとするなら、厚労省案でもまだ甘く、喫煙室を認めること自体がナンセンスです。実は、厚労省推奨の「一定の要件を満たす」喫煙室でも、煙の漏れを防止できないことが、産業医科大学の大和浩教授の研究で明らかになっているのです。

 国立保健医療科学院・生活環境研究部の欅田尚樹部長は「煙の広がりを考えれば敷地内禁煙が理想」と指摘しますが、今回の法改正で敷地内禁煙となるのは、小中高校と医療機関などに限られます。

ダダ漏れ喫煙室

 タバコの煙に光を当てると、4千種類以上の化学物質を含む無数の微粒子(タール)が浮遊していることが分かります。さらに、目に見えないガス成分にも、人体に有害な一酸化炭素やアンモニア、発がん性物質などが含まれます。

 分煙していてもタバコの臭いを感じるということは、漏れた煙を吸ったということ。

 喫煙室から煙が漏れるのは、まずドアを開閉する度に喫煙室の内と外で圧力差が生じてしまうため。喫煙室内の煙がドアや給気口、蛍光灯・火災報知器と天井の隙間などから押し出されます。

 厚労省は給気口の内側に紙の弁を取り付けることを推奨していますが、研究では弁を取り付けても煙の漏れは防げませんでした。

 スライド式のドアならば圧力差は生じないものの、通常のドアよりも高額です。喫煙室には排気装置の設置が必要ですが、冷暖房された空気も一緒に排気しますから、電力の浪費、経費のムダです。「節電に最も有効なのは、昼休みの照明を消すことではなく、喫煙室を廃止することなのです」と大和教授。

 また、喫煙所から人が出る時には、歩く背後に渦巻く気流が発生し、内部の煙を外に持ち出します。出入口では内側に向かって風が吹き込むようになっているものの、歩行速度の方が2倍以上速いために発生する現象です。厚労省の示す「前室を設ける」といった対策は、「多少なりとも効果はありますが、余分なスペースと多額の投資が必要です」と大和教授は指摘します。

喫煙所や吐息も問題

 屋外に喫煙所を設けるとしても、その場所が適切でなければ、かえって受動喫煙のリスクは高まります。厚労省は、「喫煙場所を施設の出入口から極力離す」よう求めていますが罰則などもありません。

 実験では、風の向きや強さ次第では、喫煙所から水平方向に25m離れた場所でも日本の大気環境基準を超えるPM2.5(微小粒子状物質)が観測されています。煙は上方向に拡散しますので、路上の喫煙コーナーの上に歩道橋がある場合はさらに深刻合受動喫煙が発生します。

 さらに、喫煙後の吐息の問題も見落とされています。肺に残っている煙は、2~3分は吐き出され続けます。その後も呼気にガス状成分(タバコ臭)が残り、喫煙前のレベルに戻るまで45分かかったと報告されています。

 大和教授は、「肺から煙が完全に出切るまで喫煙室から出られない、喫煙後は口をすすぎ、洗面と手洗いをする、といった徹底したルールが必要」と話します。

煙なくても三次喫煙

 近年、煙を被った部屋や家具に残留した粒子成分による「三次喫煙(サードハンド・スモーク)」の問題も指摘されています。

 欅田部長によれば「現段階で一般人への実害は明確ではない」ものの、「気管支喘息や化学物質過敏症の患者さんでは、発作を誘発します」とのこと。その場にいなければ吸っても大丈夫、というのは間違いで、時を超えて健康被害を与えるのです。

 非喫煙者の健康を本当に守り、安心できる生活を実現しようとするなら、公共の場所の敷地内禁煙しかありません。時間帯禁煙など論外です。
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