岩瀬博太郎・千葉大学大学院法医学教室教授インタビュー
――それだけの施設を回すだけの人材はいるのでしょうか。
法医解剖を専門に行う医師が日本全国で1200人程度必要ということになります。現在は法医解剖を行う医師は150人しかいません。なり手がいないのでないかという意見もあるでしょうが、実際には各大学医学部の1学年に1人や2人、希望者はおります。けれど就職先を保証できないから断っているのが現状です。充分な人員を配備できれば、こうした希望者を取り込んでいくことは可能だと思います。また、医療過誤に疲れた医療者の新たな働き口としてもいいのではないでしょうか。医療崩壊を止めるためにも、そうした方が法医に来られることは歓迎すべきことだと思います。そんなことを考えれば、1200人というのも、その気になれば集められない数字ではないと思います。
――日本人は解剖が嫌いな国民性という説もありますよね。
それはあまり信用できない話だと思います。都道府県ごとに、どれだけの異状死体を解剖しているかみると、千葉県と埼玉県が2%、沖縄県14%、東京都18%です。この違いを、単に県民性では説明できませんよね。ユダヤ教では戒律で解剖を禁じているけれどもイスラエルの方が日本より剖検率が高いのです。法医解剖の制度が貧弱なために、解剖率が低いというのが本当の理由なのですが、そうした現実を、解剖嫌いな国民性という言葉でごまかしてきたようにも見えます。