松澤佑次・住友病院院長インタビュー
もともと身近な病気に関心があったというのがあります。免疫疾患や癌のように苦痛や生命の危険を伴う難病は、研究者が必要とされやすいですし、何かやっていることも研究らしく見えますよね。では、生活習慣病は研究の対象にならないのか、と考えてみると、肥満になると病気になるというのは一見当たり前のようなんですが、よく考えてみると、なぜ肥満が悪いのか分かっていなかった。
糖尿病にしても高血圧にしても高脂血症にしても、現実に存在する疾患であり、一見痛くも痒くもない熱が出るわけでもない、しかしある日突然心筋梗塞や脳梗塞を引き起こして命や体の自由を奪うわけです。これが戦後何十倍にも増えたのですね。原因が遺伝子や細菌のせいとは思えない。そこで食べなきゃエエんや、という発想になりがちなのですが、きちんと本体を特定すれば患者数を何十分の一にできる可能性があるわけです。そういう意味で、そこに取り組むのは面白いと思ったのです。
――なぜ脂肪に着目したのですか。
私たちが医師になったころは、脂肪というのは何の面白みもない存在と考えられていまして、私も最初から研究していたのではありません。ただ、例外からアプローチしなさい、つまり教科書に載っていないようなことが起きたら、それを研究しなさい、という教育を受けてきました。
我々が子どものころは、肥満が健康に悪いなんてことは誰も言っていなくて、むしろ太っている方が栄養状態がよくて健康だ、と見られていました。でも、先んじて豊かになった欧米では肥満は生活習慣病を引き起こすということが早くから常識と見なされていたようで、さすがに我々が医師になったころには、肥満は病気の元である、と教科書に書いてありました。
私が所属した大阪大学第二内科脂質研究室に当時としてはさきがけ的な肥満研究グループというのがありました。その研究を傍から見ていると、肥満が生活習慣病につながるというのは確かなんですが、例外があるのです。つまり、体重150kgとか200kgといった珍しいほどの肥満の人は、むしろ数値に異常がないことが多くてビックリする。一方で70kg、80kgの人が、1kg太った程度でドカンと血糖が上がったり中性脂肪が上がったりしているのです。それから肥満の代表選手と言いますか、相撲取りもあんなに太っているのに、健康で激しいスポーツをしていますよね。
してみると、肥満が病気につながるのだとはいっても、脂肪の量が決めているのではなく、何か質的な転換が起きているのでないかと推測できる。このことに気づいたのが、脂肪に着目するきっかけで、1980年代はじめごろのことでした。
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