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松澤佑次・住友病院院長インタビュー

――なるほど。

 臨床データだけしかなかったらコンセンサスを得られなかったかもしれませんが、脂肪組織が一体何をしているのか、皮下脂肪と内臓脂肪で一体何が異なるのか、他の臓器と何が異なるのか、なぜ症状が出るのか、といったことを生物学的に調べた成果がものを言いました。

 90年代はじめごろ、松原謙一先生(大阪大学名誉教授)にご指導いただいて、内臓脂肪細胞で発現している遺伝子を網羅的に解析するボディマッププロジェクトを始めたところ、我々もまったく予想しない結果が出てきたのです。

 エネルギーの蓄積と放出にかかわる遺伝子は当然発現していると思っていましたが、それ以外にも分泌タンパク、細胞の外へ放出されて他の臓器をコントロールしているものがたくさん作られているという驚くべき発見でした。見つかったタンパクは例えば、炎症を起こすTNF-αや昇圧に働くアンジオテンシノーゲン、血液凝固を促進するPAI-1などでして、これらは内臓脂肪が溜まるとたくさん作られるようになるので、内臓脂肪が溜まると血栓性疾患が起きやすくなるという因果関係がクリアになってきました。

 さらに未知のタンパクもいくつも見つかりました。特に内臓脂肪細胞で最も強く発現していたのが、アディポネクチンでして、インスリン抵抗性の改善や抗動脈硬化作用があるということで、現在のところ世界的に最も注目されています。我々が最も早く発見し、アデイポネクチンという名も我々が付けました。ラッキーでした。米国でもほぼ同じ時期に、ネズミで似たたんぱくを見つけたグループが2組ありましたが、ネズミだったせいもあったのか解析できていませんでした。このアディポネクチンは、先ほど挙げた疾患を引き起こす因子などと異なり、内臓脂肪が増えると、なぜか発現が減ってしまうことも分かりました。これによって、内臓脂肪が増えると、抗糖尿病、抗動脈硬化力が落ちてきてしまうメカニズムも分かってきたわけです。

 これら脂肪が分泌している生理活性物質を「アディポサイトカイン」と総称することにしようと提唱したのも我々です。米国では最近、「アディポカインだ」と呼んで新しい概念のように言っていますが、まあ名前はどうであれ、脂肪が生理活性物質を大量に分泌しているということに辿りついたのが大事だと思います。

 整理しますと、肥満が生活習慣病に結びつくメカニズムに関して、研究の端緒となる現象を見つけ、その現象の原因となる仮説を臨床で見つけ、仕組みを分子生物学的アプローチで明らかにしたことになります。最初から最後まで我々でやり切ったわけですから、非常な達成感があります。

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