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ニュース〜医療の今がわかる

松澤佑次・住友病院院長インタビュー

――松原先生とは、どのようなご縁で?

 松原先生は非常にアクセクタブルな方で、当時は全く面白くないと見られていた脂肪細胞の解析を面白がって引き受けてくださいました。とてもありがたかったです。研究室から1人ずつ2~3年ずつ松原先生の所で助教授をしていた大久保先生に弟子入りしまして、非常に厳しくご指導いただいたそうです。ラッキーなことに、1人1個ずつ大発見をしてくれました。

 最初にポスドクだった下村君(伊一郎・現阪大教授)がPAI-1、次に行った前田君(和久氏)がアディポネクチン、次の栗山君(洋氏)がアクアポリン・アディポスといった具合です。このような優秀な仲間に恵まれたのは非常にラッキーだったと思います。もちろん結果が出なかった人もいますけれど、先ほども言ったように、それもムダではなく彼らの蓄積があったから成功があったのです。

――非常に勉強になりました。ところで、患者さんに対して、これは知っておくといいですよというようなことはありますか。

 生活習慣病はリアルタイムに直接症状があるわけではありませんので、何のために高脂血症、高血糖、高血圧をコントロールするのか、まず理解いただきたいと思います。ある日突然、血管疾患に襲われることのないようにということですね。これをドクターも患者さんも共に理解していれば非常に良い予防医学となると思うのです。

 しかしながら、20世紀は病気の切り売りといいますか、絡まった糸をほぐすように病気を分解して理解してきた経緯があります。そして分解した一つ一つについて上流へ遡って原因となる遺伝子異常がないか探す、こういうアプローチで研究されてきたのですね。しかし、今のところ必ずしも全てが成功したとは言えないと思います。むしろ、個々の数値にフォーカスしすぎて、その管理を強調するあまり、なぜ管理が必要なのかウッカリすると忘れてしまう。たとえば、血圧と血糖に2つ異常があれば2つの病気として扱い、2つ以上の薬が出るわけです。これが医療費を上げた原因でもあります。冷静に考えれば、血管疾患のリスクさえ下げられればよいはずなのに、血糖値や中性脂肪値が自己目的化してしまいがちです。

 これに対して、メタボリックシンドロームは初めて複合的なものを複合的なまま理解して、背後に潜む黒幕を明らかにしたという意味で、21世紀型の疾患概念です。氷山に例えれば、水面上に高血糖、高血圧、高脂血症があるけれど、水面下に内臓脂肪過剰があり、それを何とかしなければ、いくら水面上を削っても意味がないわけです。

 このことが分ければ、運動強化やダイエットといった生活改善の努力はシンドイことではなくなるはずです。これまでは、なぜ肥満がいけないのか、運動不足がいけないのか、ピンと来なかったと思います。しかし、この概念ならば、生活改善してメリットのある人だけを選び出して、地に足の付いた説明で生活改善を促すことができるのです。

――そういう捉え方ができるのですね。

 あと一点、患者さんに知っていただきたいのは、内臓脂肪は増えるのも減るのも早いことです。よく普通預金と定期預金にたとえられますが、内臓脂肪は普通預金ですから、少し生活を改善するだけで成果を実感できます。それから、ウエストはあくまでも分かりやすい指標として選ばれたものです。体重やBMIではピンと来ないけれど、ウエストなら毎朝ベルトを締めるときに分かる、それだけのことです。あくまでも内臓脂肪の量が問題なので、ウエスト径が自己目的化しないようにしていただきたいと思います。

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