文字の大きさ

ニュース〜医療の今がわかる

患者の声と対話型ADR


和田
「話をできていたら、納得いく対応が得られたと思うか」


村上
「まず、きちんと話を聴いてほしい。納得いくまで説明をして、そのうえで私の言い分を聴いて欲しかった。事案解明した説明と反省や後悔、あるいは力及びませんでという言葉と息子のようなことを二度と起こしませんという誓いの言葉があれば、納得できたのでないかと想像する。
会っても文書と全く同じ対応だったら怒り狂って何も言えなくなってしまうかもしれない。単なる謝罪だけなら受け入れられない。
会うのはいいことで解決する手段かもしれないけれど、お互いに準備をしてからでないと意味がないのでないかと想像する」


和田
「どういう準備?」


村上
「疑義を申し立てるのはよほどのこと。スーパーのレジ打ち間違えとは訳が違う。迷いに迷った挙句の行動なので、感情的に崖っぷち、ギリギリの所に立っている。マイナスの感情だけで、しかも自分自身を責める気持ちも根底にある。そんな状態だから、感情そのものをぶつけてしまいがちだし、自分が何を望んでいるのかすら分からなくなる。
医療者と会う前に、そういったマイナスの感情を脱ぎ捨てないと、脱ぎ捨てるのは無理だとしたら、せめて抑え込まないと。被害者が加害者と話をする図式ではうまくいかない」


和田
「村上さんに『被害者』という言葉に違和感があると言われた。マイナスの感情を抑え込むことができたという意味では自分自身でメディエーションをこなしているのだろうか」


村上
「私には、まじめに話を聴いて、しかも批判してくれる家族や友人がいた。その点で恵まれていた。周りに医者がいたのでカルテを読んでもらったし、弁護士の友達もいた。そうした人たちに支えられることで、自分の中でキリの良いところで終わらせることができた」


和田
「医療者側も準備しなければいけないだろうか」


村上
「鎧を脱いでもらいたい。組織、保身、体面、世の中を渡っていく鎧を脱いで、良心だけで対峙して将来への誓いを立ててほしい。自分には、できないと思ったら、それも口に出してほしい。組織も、大きな度量で医療者にそれを許してほしい」


和田
「医療機関との交渉では得るところがなかったけれど、文部科学省が対応してくれたとか」


村上
「いろいろと文書にまとめて大学へ送った最初の項目が、健康診断結果の通知方法についてだった。大学の方法は明らかに問題があったけれど、調べてみると全国の多くの大学で同じ方法を取っていた。そこで文部科学大臣に手紙を出した。お役所だから期待していなかったのだけれど、「どういう結果であろうとも本人へ伝えるよう」全国の大学へ文書を発したとのお返事が来た。
たったひとつだけれど願いが叶ったと思うことにした。息子の死が価値あるものになるのは遺族にとって大きな意味がある。
私が伝えたかったのは、疑義を申し立てた人の気持ち。医療者には理解してもらえなかった。危険人物のように見なされ、相手は隙を見せないように身構えている。大きな溝を感じた。その構図では気持ちが伝わるはずがない。
医療者へ申し上げたい。疑義申し立てした人を固定観念で見ないでほしい。真っ正面で受け止めてほしい。それが問題解決につながる」

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
loading ...
月別インデックス