「医療崩壊が表れた」―都の脳卒中連携搬送協議会
この日の東京都脳卒中医療連携協議会の会合では、新しく始まった搬送体制の状況が報告された。
東京都消防庁は4月の搬送状況を報告。救急隊が搬送依頼を受けて、シンシナティ病院前脳卒中スケールに基づいて脳卒中急性期医療機関に搬送が必要と判断し、実際に搬送したのは1007人。年齢は19-99歳で、平均は69.1歳。男性624人、女性383人。医療機関で初診を受け、「重篤」だったのは16人、「重症」97人、「中等症」842人、「軽傷」52人。医療機関への照会回数が最も多かったのは26回で、平均の照会回数は2.4回。約80%が3回以内の照会で受入れが決まっていた。
永井秀明委員(東京都消防庁救急部救急指導課長)は、個人的な印象と前置きした上で、「脳卒中に関しては他の搬送困難事例よりもスムーズに(受け入れ先が)決まっているように感じている。3回もかからず、2回で決まっている」と述べた。
次に、玉置肇委員(西東京市医師会会長)が脳卒中連携搬送開始後の北多摩北部医療圏の状況を報告。同医療圏は人口約71万3500人、東村山市、清瀬市、東久留米市、西東京市、小平市がある。脳卒中急性期医療機関は8か所で、t-PA治療ができるのはこのうち6か所。
■1病院に患者が集中、脳外科医が悲鳴
玉置委員は、「実際は数に表れない実態がある」と述べ、小平市にある公立昭和病院(上西紀夫院長、490床)に脳卒中の疑いがある患者が集中し、脳外科医が疲弊して脳卒中急性期医療機関を返上する意思を示したと説明。ほかの脳卒中急性期医療機関は、患者を受け入れられる時間帯や日数が少なく、土日は対応できる医療機関が同病院のみだったため、結局のところ受け入れられやすい同病院に「一極集中」したという。特にt-PA治療が必要と思われる患者の搬送が、搬送システムが始まる前は月間9件程度だったのが、開始後には26件と約3倍にまで増えたとした。 「脳外科医は常勤6人で体制でやっていた。院長にかけ合って(脳卒中急性期医療機関の実施を)受けてもらい、開始当時は頑張ってもらっていたが、早々と常勤が『これではやっていけない』と悲鳴を上げ、(救急隊に配布する)カレンダーから降りてしまった。一病院に集中する体制に無理があったということ」
その後、同医療圏の南部や西部の病院に患者を運ぶようになっているという。玉置委員は、同医療圏では閉院する2次救急も多いため、北多摩西部、北多摩南部医療圏などと合わせた医療圏での搬送体制も考えられると述べた。
有賀会長はこれに対し、以前なら搬送されていなかった患者の搬送が増えたのか、他の医療圏に搬送されていた患者が昭和病院に運ばれるようになったのかと尋ねた。
玉置委員は「搬送自体の件数が全体に増えているわけではない。脳外科のt-PA患者(という判断基準)が出てきてから、t-PA患者が急激に増えた。それが現場の医師を疲弊させ、ギブアップさせた」と答えた。
■t-PA可能な病院に負荷か
富田博樹委員(武蔵野赤十字病院院長)は、「これまで救急隊がうまくトリアージしていたが、現状に応じたトリアージができなくなった。t-PAができる病院に無駄な負荷がかかるようになった」と述べ、この搬送システムの導入によって、救急隊が独自に行っていた搬送先の選定方法が変わり、搬送を受ける病院の負担が変わってきたと指摘した。
高里良男委員(国立病院機構災害医療センター福院長)は、「今まで来れなかった人が啓発によって来るようになった」と延べ、患者への普及啓発が影響していることを示唆した。
有賀会長は、「医療資源の分布に(脳卒中急性期医療機関が)足りないところがある。分布を考えながら、もう少し広くどう運ぶのか。地域の脳卒中施設を大事にするにはどうするかということで、この作業部会の議論を展開してもらえるとありがたい」と述べ、この協議会の下部組織として発足する評価検証部会での議論につながることを求めた。
また、有賀会長は「救急隊の判断と医学的な診断のマッチングをどうするかということがある。医学的判断をフィードバックする仕組みないとどうにもならない」と述べた。昨年度はすべての搬送ケースのマッチングを行うのは困難として見送りになったが、実施することの必要性を強調した。
このほかには、篠原幸人委員(国家公務員共済組合連合会立川病院院長)が「脳卒中は30%が再発になる」と指摘した上で、回復期や維持期から急性期への流れも視野に入れて連携体制を構築すべきと主張した。
会合は予定していた2時間を超えて終了。報告事項に多くの時間が割かれたため、議論の時間は少なかったものの、現場からは深刻な状況が報告された。
公立昭和病院の現状を報告した玉置委員は会合終了後、取材に対し、「医療崩壊が表れたのだと思う」と、本来搬送すべき患者を運んだにも関わらず、医療提供側が疲弊したと語った。