救急受け入れルールのガイドライン作成へ議論開始-消防庁・厚労省
都道府県が策定する救急受け入れルールの指針(ガイドライン)をつくるため、総務省消防庁と厚生労働省は6月29日、「傷病者の搬送及び受け入れの実施基準等に関する検討会」の初会合を開催した。都道府県に搬送ルールの策定を義務付けた改正消防法の成立を受けたもので、10月末にはガイドラインを都道府県に通知する。(熊田梨恵)
今年4月に成立した改正消防法は、都道府県に「傷病者の搬送・受け入れ実施基準」の策定、公表を義務付けている。この基準では、救急隊が患者の状態に応じて医療機関を選んだり、医療機関への情報の伝えたりする場合のルールを設定。搬送先となる医療機関をリスト化し、受け入れ先が決まらない場合の対応についても盛り込む。都道府県は、医療機関や消防機関、行政、有識者などから成る協議会を設置して実施基準を決め、救急受け入れに関する調査や分析、連絡調整を行わなければならない。
ただ、都道府県にはすでに「救急医療対策協議会」などの名称で、保健衛生部局、つまり厚労省が主管する救急医療について議論する地域レベルの協議会が設置されているところがほとんどだ。また、救急救命士が病院到着前に行う医療行為に関する教育などを担うメディカルコントロール協議会も、消防庁を主管に各都道府県や二次医療圏単位で活動している。これらの協議会の活動は地域によって温度差がある上、活動内容も異なっている。今回の法改正によって、さらに新しい協議会が設置されることになるが、これまでの地域レベルでの活動を阻害するものにならないよう、地域の実情に応じて既存の協議会が兼務していく方向性も示されている。
検討会は医療機関や消防機関、学識経験者や一般国民代表など23人から成る。厚労省と総務省の合同検討会となるため、両省がこれまでに開いてきた救急医療関係の検討会のメンバーを合わせたような顔ぶれになった。座長には、東京臨海病院院長の山本保博氏を選出。検討会は今後、作業部会を設置してガイドライン策定に向けた議論を行い、改正消防法が施行される10月末までに報告をまとめ、都道府県に内容を通知する。
初会合で挨拶した消防庁の岡本保長官は「実際にこの制度を作っていくのは都道府県。それぞれの医療資源、体制の中でこれを現実化していく。各都道府県におけるシステムのガイドライン、ベースになる観点をぜひご審議いただき、各47都道府県の基準作成のベースになるものをお願いしたい」と述べた。
ガイドラインの細部の検討は作業部会に任せるとして、検討会ではガイドラインの方向性などについてのフリーディスカッションが行われた。
杉本壽委員(星ヶ丘厚生年金病院院長)はガイドライン策定について、「基本的には受け入れ側が対応できる体制を取れるのかどうか。ここにすべてがかかっていると思う。救急をやると常勤医がやめるという状態で、多くの2次病院が救急からむしろ撤退しようとしている。こういう形でやっていって手を上げてくれる病院が本当にあるのかどうかを危惧する。これを落としたときにどれだけの都道府県ができるのかを考えておかないと、ここで議論しても単に『よかったね』というだけの絵に描いた餅に終わる可能性があると思う」と述べた。
有賀徹委員(昭和大医学部救急医学講座主任教授)は、消防庁が昨年実施した東京都の救急受け入れに関する実態調査について、4回以上受け入れを問い合わせたケースが全体では8.3%あったが、精神疾患やアルコール中毒などの「背景」がある患者になると34.0%に上ったことを示した上で、「もともと消防機関や救急病院が自分たちが責任を持たなければいけないのではないテーマに対して、一肌も二肌も脱いでいる。病院に運ばれる前の社会の状況としてどう考えるのかという話」と述べた。また、東京都が3月に開始した脳卒中連携搬送に関して、「脳卒中がうまくいっているというのは大嘘」と述べ、急性期の患者の流れが滞っている地域があるとした。こうした実態を説明した上で、「社会全体の中で患者さんがどう流れているのかという『流れ』で見ないと話は成り立たない。明らかなことをきちんと面倒見てこなかったからこうなっただけの話。この会でルールを決めるのはいいが、守ることができなかったらルールも何もない。座長もお金の議論をきちっと位置づけるよう、半分ぐらいのパワーを使ってやっていただきたい」と、予算の話も同時に議論するよう求めた。
坂本哲也委員(帝京大医学部救命救急センター教授)は、改正消防法で新しく位置付けられた協議会が、救急受け入れに関する調査や分析を担う役割があることを示し、患者の疾患と搬送先の医療機関のマッチングを行う必要があるとした。その上で、「これは大変なので、現場に負担をかけないでやるには厚労省だけでやるのか、日本医師会なり病院会なりのところでやっていくのかという枠組みを考えていかないといけない。厚労省として500万件の救急搬送について適切な搬送だったかどうかを検証していくのか、それとも病院に運ばれていればそれでよしとするのか、その辺について教えていただきたい」と尋ねた。
厚労省の三浦公嗣医政局指導課長はこれに対し、「今度の消防法改正というのは救急医療のPDCAサイクルを回していこうと言うのが基本的な考え方だと理解している。そのために搬送状況について、国だけでなく地域というものあると思うので連携して現状を把握し、国として解決すべきものであれば対応していこうと考えている」と答えた。
山本修三委員(日本病院会会長)は、病院側は救急患者を受け入れなければいけないというコンセンサスは基本的にあるとした上で、「その仕組みをどう作るか。あまりきちんと決めると、行動が鈍くなる。フレキシビリティある仕組みでないと受けれられない」と述べた。また、現在の救急医療の問題について「2次救急が極めて弱くなった。コモンディジーズを扱う2次救急が弱いので、助ける知恵が必要」との認識を示した。
山崎學委員(日本精神科病院協会副会長)は、合併症のある精神病患者や精神障害者は救急医療機関に受け入れられないと主張。「統合失調症やうつ病があると断られる。合併症のある患者をどうするかが検討課題。認知症の患者も増えているので、認知症の救急搬送をどうするかが社会的にも大きな問題」と述べた。